デザインと人間工学の両面から、トータルシステムを考える
人間工学は、ギリシャ語の労働「ergon」と法則「nomos」を意味する言葉の造語「Ergonomics」に統一されつつある。その名の通り「労働の法則」であり、労働科学に近いともいえるだろう。テーマとしては1950年代からは疲労などの生理系、パソコンが登場した1980年代からは認知系、そして現在は価値をどう提供するか、システムを考えるサービス系へと広がっている。
人間工学が担うのは、建築でいえば土台に当たる部分、つまり安全性や快適性などであり、その上にデザインがなされる。人間工学とデザインは表裏一体のものであり、両者を往来して考えながら製品を開発していく。山岡氏は「それぞれを別々に学ぶ現在のスタイルに問題がある。米国は学生時からまったく切り離されており、職能としても分けられる。日本はまだ1人で両方を考える形だが、自発的に自分で学ばなければならない状況にある」と問題を指摘する。
建築における構造力学、機械工学における材料力学と同様に、デザイン(設計)のコア学問として人間工学を位置づけるべきだという。デザインと人間工学の融合として「デザイン人間工学」があり、ユニバーサルデザインもUXデザインもそこに属している。そうしたことを踏まえ、山岡氏は「技術がメインであり、色や形が付加価値という考え方には違和感がある」と語る。「トータルなシステムとしての価値提供を考えるべき」というわけだ。