「破壊的イノベーション」と「経営理論」の意義、イノベーションを阻害する5つの要因
優れた経営判断を行うには、直感や試行錯誤にだけ頼るよりも、因果関係についての理論が重要である
こう語るのは、イノサイトの共同創業者でありハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授。
今までの経営者にとって有効な情報とは「過去についてのみ存在」し、今日の加速した経営環境を鑑みると、その情報がいずれ陳腐化するという「大きなジレンマ」が存在する。クリステンセン氏はこの状況を、「神はなぜ未来のデータを与えてくれないのか?」と誇張してみせる。
「情報がないときにリーダーの判断を助けるのは優れた理論です」とクリステンセンは続ける。クリステンセンのイノベーションに関する破壊理論は、世界で最も成功した企業が次々と破壊されたパターンを分析したことがきっかけで確立された。例えば、80年代のミニコンメーカーのほとんどが破壊されたのは「優良顧客向けのコンピュータの性能向上ばかりを求めたことにあります」と例示した。
優良顧客の声を聞くことは、一見合理的な戦略にも見える。しかし、この“優良顧客争奪競争”は大半の顧客が必要とする性能を超えるまで進み、「オーバーシュート」つまり、市場要求を超越する。また同時に、「無消費(Non-consumption)」の顧客が多く存在することに注意が向かなくなる。「無消費(状態にある)」顧客は、高額な商品を買う資金力や、使いこなすスキルが不足しているため買うことができない。この状況は安く、シンプルで、身近な商品を提供する破壊的な参入企業にとって大きな市場機会となるのだ。
破壊する側の製品には、黎明期にあったパソコン(アップルIIはおもちゃだと思われていた)や、小型で性能の劣る一方で5000ドルを切るような低価格の中国製の電気自動車まで様々なものが存在する。これらは各業界のトップ企業からは利益率が低く、魅力のない事業だと思われるのが一般的だ。しかし、このような底辺の市場を足がかりにして、徐々に上位の市場へと成長することで破壊が進行していく。
これが、イノベーションのジレンマの本質だ。企業の成功要因となった文化や社内指標、仕組みなどが、破壊者の前には弱点となることを理解した上で、いかにして変革を進めることができるのか。
イノサイトによるイノベーションを阻害する要因に関しての調査が共有され、サミットではさらに深い議論が展開された。
事例として挙げられたのは、ヘルスケアと会計サービスに関して。