デザイン経営宣言後に考える、「ブランディング」と「マーケティング」の違い
福田淳氏(以下、敬称略):WASEDA NEOトークセッションの第1回として、コンセプターの坂井直樹さんをゲストに迎えることができました。今回テーマとさせていただいたのが、「デザイン経営時代のブランディング」。マーケティングとブランディングの違い、またブランディングがどう企業にメリットをもたらすのかについて、最近の事例なども交えながらお話していきたいと思います。
坂井直樹氏(以下、敬称略):まずは、マーケティングとブランディングの話に入る前に、トークセッションのもう一つのテーマである「デザイン経営宣言」とは何かを理解するために、経済産業省・特許庁の「別冊 デザイン経営の先行事例」という資料を一緒にみていきましょうか。
この資料で語られているデザイン経営の効果を要約すると、「デザイン投資によりデザイン力やブランド力が向上し、イノベーションが生まれ競争力が強化され、シェアで圧倒的優位に立てる」と。それが出来ている企業は、Apple、ダイソン、無印良品、マツダ、メルカリ、Airbnbなどが、挙げられています。
上記企業に共通しているデザイン経営の要件は、「経営チームにデザインの責任者がいるかどうか」なんですね。ナイキのマーク・パーカーという代表は、もともとデザイナーですから、ナイキは完全に「デザイン経営の要件の一つ」を満たしていますね。要するに、経営層にデザイナー(もしくは出身者)がいる、もしくはデザインチームが経営の意思決定に関与している。これがデザイン経営の条件であると、この資料では説明しています。
もう一つのテーマである、ブランディングやマーケティングに関して、上記のデザイン経営の定義を踏まえて、まずは「ブランディングって一体何なんだ」という話をしましょうか。
福田:「ブランディングって一体何なんだ」と言われて明確に回答できる人は多くないと思います。
坂井:ブランディングとは「ブランドに対する共感や信頼などを通じて顧客にとっての価値を高めていく、企業と組織のマーケティング戦略の1つ」ですよね。
そのために必要なことが「消費者のbehavior(行動・習性)に変化を起こす」ということ。
福田:僕は長く営業をやっていたので、営業的観点で「ブランディングとマーケティングの違いは何か」と問われると、シンプルに「マーケティングは、宣伝部長のところに営業に行く」で、「ブランディングは経営者のところに営業に行く」と答えますね。それが両者の表面的な違いかなと思います。
坂井:そういう捉え方もありますね。で、これは和田浩子さんという、いうマーケティングの天才が書いた文章。
福田:和田浩子さんは、元P&Gの方ですね。
坂井:元P&Gの副社長で、超迫力ある方なんですよ。彼女に言わせると、マーケティングは「まずは知ってもらうこと」。そりゃ、そうですね。で、それを「使いたいと思ってもらうこと」。そして「買ってもらうこと」。これらがマーケティングだと、非常に易しい言葉で難しいことが書かれています。
福田:でも、そうでしょうね。やっぱり知って買ってもらうっていうのは、テレビCMの王道ですからね。
坂井:そう。で、ほとんどの商品が「じつは知られていない」ということで、初めにこけてしまうわけですね。2番目の「使ってもらいたいと思われること」まで行くのは、ほとんどない。当然3番目も同様ですね。