アフターデジタル化によって産業構造のヒエラルキー転換が起こる中国
「アフターデジタル~中国に学ぶOMO-UX戦略と日本型DXのあり方」と題し登壇したのは、ビービットの宮坂祐氏。コンサルタントとして企業のデジタル戦略を多数担当してきた同氏は、「世の中の変化は突然現れ、急に加速する」と語り、「3時間・150回」という数字を挙げた。
これは、日本人が平均して1日にスマホに触れている時間と回数を表す。
アップルが初代iPhoneを発売したのは、2007年の6月29日。そこから12年の間に、消費者の生活は、スマホなしでは成り立たないというほどに一変した。この状態を、宮坂氏は「アフターデジタル」と呼んでいる。アフターデジタルの特徴は、ビジネスや生活における体験のあらゆるタッチポイントが、デジタルに包み込まれている状態であること。今やリアルな世界は、デジタルの中に存在するのだ。
宮坂氏は、Amazonがアメリカで展開する実店舗のAmazon GOやAmazon Booksを例に挙げ、「リアルの行動がデータ化されたアフターデジタルの世界では、IDで個人とあらゆる行動データの紐付けができる」と語る。そして、国単位でアフターデジタル化している中国のライフスタイルを紹介した。
宮坂氏によると、中国の都市部におけるスマートフォンの普及率は、ほぼ100%。テンセントの「WeChat Pay」、アリババ・グループの「アリペイ」の2大決済サービスが、支払い手段という立場を超え、あらゆるサービスへのゲートウェイとなっている。例えば、アプリから手配したタクシーに乗りながら、位置情報をもとに空席のある映画館を探し出し、予約と支払いまでシームレスに完結することは、当たり前の光景だ。
さらに宮坂氏は、シェアサイクルサービス「モバイク」を紹介する。決められた駐輪場を持たないモバイクは、スマホで解錠し、乗り捨てが可能。乗り捨てされた自転車は、モバイク側が回収するシステムだ。顧客利便性の高いサービスである一方、GPSを搭載した専用の自転車製造費や回収費がかかり、赤字だというモバイク。テンセントが投資する企業だが、事業は成り立つのだろうか。
その答えを、宮坂氏は次のように語る。
モバイクのような中国のサービサーは、顧客基盤を作ることにフォーカスしています。なぜなら彼らに出資する企業の狙いは、自社のプラットフォーム上に多くの顧客を集め、データを収集することだからです。モバイクの場合は、個人のIDと紐づいた移動データを得ることができます。この移動データを分析し、新たなサービス、マネタイズポイントの開発に繋げているのです。
このような動きの中、中国では産業構造のヒエラルキー転換も起きている。
市場のトッププレイヤーとして君臨するテンセントとアリババの決済プラットフォームのもとに、サービサーが集まりビジネスを展開する。そして、ものづくりのメーカーが続くという構造だ。
宮坂氏は、「日本市場で同様のことが起きるかは、まだ分からない状況」としながらも、メーカーの生存戦略を次のように言及した。
ものづくりのプレイヤーは、サービサーに転換するか、ユニークなものづくりに特化してサービサーと共存するかを迫られるでしょう。