破壊的イノベーションが予測する「教育の未来」
ではなぜ、教育の質が劣るような取り組みを、東大やハーバード、MIT、スタンフォードなどの超エリート校が取り組むのでしょうか。一見、一流校はインターネットの発展やMOOCsによる危機感を感じる必要がなさそうに思えます。しかし、クリステンセン教授による「イノベーションのジレンマ」にて発表した「破壊的イノベーション理論」を使って未来を予測すると、世界的な一流大学も安穏としていられないことがわかります。
例を挙げてみましょう。デジカメが登場した当初、画質の面ではフィルムカメラに全く太刀打ちできないものでした。撮った写真をその場で確認でき、枚数を気にする必要もなく、メールに添付してすぐシェアできるデジタルならではの利点が一部のユーザーを捉えます。一部の顧客を得たデジカメは技術進化が進みます。画質が向上するにつれ、顧客層も広がり、最終的にフィルムカメラを駆逐したのです。このように「業界再編は辺境から起きる」のです。当初はスナップや記録写真にやっと使えるようなデジタル技術であっても、じわりじわりとデジカメの性能が向上するとともに、プロのカメラマンですらデジタルで写真を撮るようになりました。このような流れに乗り遅れたくない、というのがトップ校の危機感ではないでしょうか。
既に一流校に通っている学生にとっては不十分な内容の講義であっても、お金もなく、遠くに住んでいる学生や、毎日は通うことができない社会人などにとってみれば、価値があるものです。日本に住む私たちは年間500万円以上の学費をかけることなく、仕事を続けながらスタンフォード大学の講義を聴くことができるのです。スタンフォードに行くよりははるかに刺激は少なく、教授に質問したり友人ができたりもしませんが、全くないよりはマシです。現在はこうした不完全で品質の低い講義も、今後様々な改善により徐々に既存の大学の役割を侵食しだすのではないかと予想されます。
一方で既存の大学の収入源である学費を払っている学生に無料で単位を与えていくと、売上は激減してしまいそうです。この悩みが「イノベーションのジレンマ」です。フィルムにこだわり続けたコダックはデジカメの登場により廃業にまで追いやられ、クオーツ時計の登場によって機械式の手工業にこだわったスイスの時計職人の多くは失業しました。MOOCsに取り組んでいる大学にとって、大人数・同時・同空間・同一内容という従来型の教室にこだわり過ぎると危険だということが認識されているようです。