デザインが“民主化”される時代のデザイナーの価値とは
従来のスペキュラティヴ・デザインでは、一握りの強烈なインスピレーションをもつアーティストが作品を作り、それを美術館に展示して完結してしまう、ということも起きていたようだ。そうした段階を経て、現在のダン&レイビーは、デザイナーのみならず、積極的に人文科学系の学者の想像力や物語力を開放しようとしている。イマジネーションの民主化、さらに多様な人々が学際的に集う中でそれを行うことで、「ここではなく、いまでもない」場所と「いま、ここ」とを行ったり来たりしながら、ビジョンの解像度を高めていくことが可能になると岩渕氏は語る。デザイン実践者でもある岩渕氏はDesigned Realitiesのプロセスを用いて、企業とのビジョン・デザインプロジェクトも開始している。
そこでは想像力、クリエイティブな教養、人文科学系の造詣がいっそう重要になる。個人がまずそのような態度であることは重要だが、組織の中で1人だけで実践することは難しい。どう組織全体に、社会全体に「共脳」の仕組みをインストールできるか、様々なレベルで長期的に学際性と多様性を醸成していく必要が生じるだろう。また、想像した先に「いま、ここ」とどう接続するかという意味で、現在と未来、具体と抽象、超ミクロと超マクロといった、様々なレンズで自由自在に世界を見られるようになることが求められてくるのではないかと言う。