老舗に存在する「継承のデザイン」による家業型経営
大山貴子氏(株式会社fog代表、以下敬称略):前編では、金融業界で仕事をなさっていた菊池さんに、農業の経験から、全産業で「循環」や「持続可能性」を意識すべき理由をご説明いただきました。現状、企業が持続可能性を重視して事業を進めるためにはどんなところに課題があるのでしょうか。
菊池紳氏(いきもの株式会社代表、以下敬称略):多くの企業が「長期にわたって事業を続けていきたい」と思っているはずですが、超長期の未来を踏まえた投資判断はなかなか難しいです。何かビジネスアイデアがあった時に、「それは採算がとれないからダメだ」とパッと言ってしまいますよね。その採算は、短期的なリターンを意味しています。100万円投資して、来年200万円になりそうなら決断できますよね。でも、来年ではなく100年後に子孫が受け取るリターンになると、本当に利益が出るかもわからないし、投資した人と受け取る人が一致しなくなってしまう。長期の時間軸におけるリターンは、不確実性だけでなく、誰かに継承する前提で設計しなければならないのです。
大山:今の話と関連して参考になると思ったのが、「家業型経営」のビジネスです。家業というものは、自分の代だけで焼き畑的に行うのではなく、孫子の代まで続くように考えてやっていくものなので、安定性が高く、長期的な持続可能性を意識した経営を志向しますよね。
菊池:そうなんですよね。僕も家業を例に出して話すことが多いです。長く続く家業型経営を実践する企業の社是は多くの場合、大上段に構えたものではないんです。「この山の景色と共にあれ」「美味しいもので人を幸せに。」程度です。多くのスタートアップが「○○テクノロジーの力で○○の問題を解決し、○○で世界一になる。」といった大きな目標や目的を掲げがちなのとは正反対ですよね。
しかし、こういった大上段に構えず、景色や周りの人との関係だけを語る社是は、「目標」ではなく「在り方」を示している。だから解釈の余地があります。その結果、時代ごとにチャレンジもできるんですよ。
僕は、ようかんで有名な「とらや」を運営する株式会社虎屋のファンなんです。虎屋さんは500年以上続く企業ですが、ものすごいカラフルな生菓子を出したり、オートクチュールのような商品をリリースしたりと、様々な試行錯誤をされている。良い意味でいつも尖っていて、創造性を発揮できているのが見て取れますよね。
長く続く家業や社訓は「引き継がなければならないもの」という「呪い」のような重荷になってしまうこともあります。そうなっていない老舗企業のように「在り方」をきちんと引き継げるような仕組みづくり、つまり「継承のデザイン」を行うことが、今企業に求められていると思いますね。