付加価値の源泉は“機能便益”から“顧客体験”へと移っている
あらゆる産業において、付加価値の源泉が変わりつつあるといわれています。これを、私が最も分かりやすいと思っている本の一つである『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(著:藤井 保文、尾原 和啓)、『アフターデジタル2 UXと自由』(著:藤井 保文)を参考に整理してみたいと思います。
つい10年ほど前までは、製品の機能便益が最大の差別化要素とされていました。
たとえば、以前は「世界最軽量の○○」というキャッチコピーを目にすることがありましたが、これは“軽い”という分かりやすい便益が差別化要素となっていたことを示しています。“差別化できる要素を持った製品”が付加価値の源泉であり、そうした製品を作れるメーカーこそが最も強い存在でした。そして、差別化要素となる機能便益を訴求する“マーケティング”や“販売チャネルの確保”が重要視されていたのです。
しかし、身の回りの利便性が一定の水準で満たされるようになると、機能便益による付加価値の創造は急激に難しくなっていきます。
そして、付加価値の源泉は“機能便益”から“顧客体験”に移行していきます。それに伴い、差別化する要素も、“価格”や“機能”から、製品やサービス全体を通して顧客に与える“体験”へと変わっていきました。
この変化を生み出したのが、「スマートフォンの登場」と「通信環境の向上」です。これにより、誰もがいつでもどこでもインターネットと繋がることとなりました。
これまでは、“オンライン”での体験と“オフライン”での体験は全く異なるものとして扱われていました。たとえ同じ会社がECサイトと店舗を運営していたとしても、両者の間での繋がりはなく、オンラインで買い物する人のためのチャネルとしてのECサイト、オフラインで買い物をするためのチャネルとしての店舗が別々に存在していたのです。
しかし、店舗でユーザーにサービスを提供しているその瞬間もインターネットと結びつき、あらゆる行動をオンラインに接続・蓄積することが可能になりました。さらに、アプリ上で常に接点を持つこともできるようになり、これまで購買する、サービスを提供する瞬間の点でしか結びつかなかった顧客との接点が、アプリを通じて線として、継続した形で持つことができるようになりました。これにより、オンライン/オフラインという分離されたチャネルの考え方はなくなり、統合された一つのチャネルとして見なされるようになったのです。
リアルチャネルでもオンライン接続されるようになったことで、新しい状況が生まれました。それは、顧客の属性データと行動データがこれまでにない水準で取得できるようになったことです。顧客データは、“最適なタイミング”で、“適切なコミュニケーション方法”で、“適切なコンテンツ”を提供することを可能にします。この文脈ある顧客体験こそが、高い顧客満足度を生み出し、付加価値の源泉となっています。そして、それこそがまさに、今注目を集めている「デジタルトランスフォーメーション(DX)」なのです。
『アフターデジタル』『アフターデジタル2』を参考に整理してきましたが、付加価値の源泉は顧客体験へと移り始めています。この流れは金融業界も例外ではなく、すべての企業が取り組むべき課題として顕在化してきているのです。