コロナ禍で起きた「モラルの革新」
今回の新型コロナウイルスによるパンデミックは、私たち人類に何をもたらしたのか。その答えとしてガブリエル氏は冒頭、「モラルの革新」を挙げた。
人間はこれまで、「しなければならないこと」「してはいけないこと」といったことを定めて、その基準に照らすことで、ひとつひとつの行いの良い悪いを判断してきた。コロナ禍により、こうしたモラルのあり方に大きな進化が起きているという。
「たとえば、日本はパンデミックに関してヨーロッパと比べていい状況にあるが、このことから、周りの人に病気をうつさないためにマスクをつけるなど、日本のように人々が協力していくことの重要性が、世界中に認識されることとなった。
また、ウイルスの拡散を防ぐためにはある程度の規制は避けられないが、ここドイツでは倫理的な観点から、その中でもいかに自由な市場を守っていけばいいのかといったことが盛んに議論された。これもまたモラルの革新だと言える」
こうしたモラルの進化はコロナ禍以前から起きていたことだが、コロナ禍において大きな進展を見せ、非常に明確になっていったとガブリエル氏は言う。
なぜかと言えば、ウイルスはすべての人間の身体に対して、平等に影響を与えていくからである。そこでは、人種も年齢も性別も関係がない。ドイツ人も日本人もアフリカ人もまったく同じ動物として考えることができる。人間というまったく同じカテゴリに属する存在として見ることができる。
このカテゴリから考えた時に、人類共通のモラルの価値が引き出されるとガブリエル氏は言う。たとえば、男女の給与の差や民族間の差別がなぜいけないのかといえば、それは、われわれがみな人間という同じカテゴリに属する存在だからである。
このように地球上の人類すべてがまったく同じ状況に直面したのは、史上初めてのことだ。それゆえに今回のウイルスの脅威を前にして、かつてないほどの「モラルの革新」が起きた。
新型コロナウイルスは度々スペイン風邪と比較されるが、スペイン風邪が流行した当時はインターネットの登場以前であり、グローバルに人間の活動を調整できる状況になかった点で、やはり大きく違う。