本調査は、無作為抽出した上場企業・非上場企業を対象に2020年6月から10月にかけて、不正の実態および不正への取り組みに関するアンケート調査を依頼し、427社から回答を得たもの。2006年より定期的に実施しており、今回で7回目。
今回の調査では2018年に行った前回調査に続き、会計不正(架空売上、費用隠蔽等)、汚職(贈収賄、カルテル、談合、利益相反)、情報不正(品質・産地・信用情報等のデータ偽装、情報漏洩、インサイダー取引)、横領の4つのタイプの不正について、「不正の実態」、「不正リスクガバナンス」に加え、昨今の「コロナ対応の実態」を調査することで、日本企業の不正対応の実態を立体的に示すことを目的にしている。
前回調査よりも不正が増加する一方で危機意識は低下
前回調査に比べて、過去3年間で不正が発生したと回答した企業は46.5%から53.9%に増加した。また、発生地域では、海外関係会社で最も多額の不正が発生したと答えた企業が16.0%から24.0%に増加している一方、不正に対する危機意識は、70%から61%へ低下している点が危惧される結果に。
長引く新型コロナウイルス感染症の影響が及ぼす様々な不正リスクの高まり
回答企業のうち68.3%の企業がリモートワークの導入に関連した情報インフラ投資を実行してるが、セキュリティレベルやモニタリングの強化といった情報管理の徹底は49.8%にとどまっており、情報不正のリスクへの対応は十分とは言えない。また、57.6%の企業がコロナ禍で不可欠な海外駐在・出張が制約されていると回答しており、相対コミュニケーションは日本企業の海外子会社ガバナンスにおいても効果的な手段であったことから、統制環境が脆弱化する懸念がある。さらに、感染拡大の業務への影響に運転資金の不足を上げる企業は12.8%にとどまるものの、補助金の利用(32.0%)、銀行への融資交渉(20.3%)で対応する企業も少なからずいると思われ、今後の業績悪化が粉飾決算やデータ偽装といった不正を誘発する可能性も秘めている。
内部監査、内部通報、海外子会社のデジタル化に大きな課題
内部監査の人員を10人以下と回答した企業は72.4%であり、不正に関する内部通報の年間件数を5件以下と回答した企業は79.2%に達している。内部監査と内部通報は不正を検知するための2大ルートであり、不正が拡大する懸念のあるコロナ禍において強化が急務となっている。さらに、管理業務の半分以上が紙依存となっていると回答したアジアの海外子会社は85%に及び、リモートでの統制・モニタリング実施の前提となるデジタル化の遅れも懸念されている。
取締役の不正対応への責任に、欧米と認識差
前述のように不正の発生が増加する一方で危機意識が低下する中で、内部監査、内部通報、デジタル化などの組織的対応が後手に回ることを防ぐために、不正ガバナンスの強化はトップダウンで迅速に進めるべき経営課題であることが示唆された結果に。一方、欧米で導入が進んでいるクローバック制度(不正発覚時に役員報酬を返還するもの)を導入済みもしくは導入を検討している企業は6.5%に過ぎず、取締役の不正対応への責任に関し、欧米と認識差があることがうかがえる。また、社外取締役に有事における主体的役割を期待するのは16.1%に過ぎず、社外取締役を含めた不正ガバナンスのあり方を再考する必要がある。