心理的安全性を計測・可視化する組織診断サーベイの提供を行う、ZENTechの取締役・慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究員 石井遼介氏監修で、心理的安全性を構成する“4つの因子”「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎」に関する設問を20個作成。回答結果を1~7ポイントで計測した“心理的安全性スコア”を算出し、現在の職場における設問結果と合わせ調査した。
心理的安全性とは、組織・チームのカルチャーを表す言葉。一言でいうと「組織・チームの誰もが、地位や経験に関わらず、率直に意見を言い、また素朴な疑問を呈せること」で「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎」という4つの因子で構成されている。4因子を測定する為の20個の設問結果を、1~7ptで計測し平均値として算出したのがPSJ値(心理的安全性スコア)。
「仕事と心理的安全性」に関する調査結果
1.コロナ禍の今 約4人に1人が離職意向あり。
『あなたは、この職場で働き続けたいと思っていますか?』という質問に対し、「当てはまる」「どちらかと言うと、当てはまる」と働き続けたい意向を回答した人の合計は278人で73.7%となり、「どちらかと言うと当てはらない」「当てはまらない」と離職したい意向を回答した人の合計は99人で26.3%となることから、約4人に1人が「離職意向がある」ということがわかった。
2.“この職場で働き続けたくない人”は心理的安全性が低い。特に「助け合い因子」が1.5pt低く、離職防止のポイントか。
『あなたは、この職場で働き続けたいと思っていますか?』という質問に対し、回答群ごとに心理的安全性スコア(PSJ値)を確認したところ、「当てはまる」「どちらかと言うと、当てはまる」と回答した人のPSJ値は4.22ptだった。「どちらかと言うと当てはらない」「当てはまらない」と回答した人はPSJ値3.38ptと0.84ptも低いことから、離職意向の高い傾向のある人は心理的安全性が低いことがわかった。
また、この回答において心理的安全性の4因子の中で最も違いが表れたのは「助け合い因子」で、「この職場で働き続けたくない人(当てはまらないと回答)」の方が「働き続けたい人(当てはまる)」より、「助け合い因子」のPSJ値が1.5ptも低いことから、職場にトラブルや行き違いがあった時、部門や役職を越えて相談・協力し合える体制や、犯人探しではなく問題を建設的に解決する雰囲気など、“助け合いのし易い組織づくり”が離職意向の軽減に繋がっていることがわかる結果となった。
3.「職場満足度」と心理的安全性の高さは相関。“職場満足していない人”は“満足している人”より「助け合い因子」が1.34pt低い。
『あなたは、今の職場で働くことに満足していますか?』という質問をし、回答群ごとに心理的安全性スコア(PSJ値)を確認したところ、「当てはまる」「どちらかと言うと、当てはまる」と回答した人のPSJ値は4.19ptだった。「どちらかと言うと当てはらない」「当てはまらない」と回答した人のPSJ値は3.68ptと、満足している人と比べて0.51ptも低いスコアとなった。職場満足度の高さと、心理的安全性の相関があることがわかった。
また、この回答において心理的安全性の4因子の中で最も違いが表れたのは「助け合い因子」で、今の職場に「満足していない人(当てはまらないと回答)」の方が「満足している人(当てはまると回答)」より「助け合い因子」のPSJ値が1.34ptも低いことから、職場にトラブルや行違いがあった際、部門や役職を越えて相談・協力し合える体制や、犯人探しではなく問題を建設的に解決する雰囲気など、“助け合いのし易い組織づくり”が、職場の満足度に繋がっていることがわかる結果となった。
4.「もっとこうした方が仕事がうまくいく」といった“改善提案の意向”が高い人は、心理的安全性が高い。仕事の改善提案を促進するカギは、0.44pt差が出た「挑戦因子」の強化。
『職場内で「もっとこうした方が仕事がうまくいく」と思った時、提案をしたいと思いますか?』という質問をし、回答群ごとに心理的安全性スコア(PSJ値)を確認したところ、「したいと思う」「どちらかと言うと、したいと思う」と回答した人のPSJ値は4.08ptであった。一方「どちらかと言うと、したいと思わない」「したいと思わない」と回答した人のPSJ値は3.81pt。“提案したい群”は、そうではない群と比べて0.27pt高いことから、職場での改善提案の意向が高い人は、心理的安全性がやや高いことがわかった。
また、この回答において心理的安全性の4因子の中で最も違いが表れたのは「挑戦因子」で、「改善提案を「どちらかと言うと、したいと思わないと回答」した人の方が「したいと思うと回答」した人より「挑戦因子」のPSJ値が0.44pt低いことから、“挑戦のしやすい組織づくり”が、職場の改善提案率向上に有効であることが分かる結果となった。
監修:株式会社ZENTech 取締役・チーフサイエンティスト石井 遼介氏からの総論
「2020年9月に上梓した書籍『心理的安全性のつくりかた』に記載した通り【Unipos導入後『マネージャーが同部署メンバーに送った拍手』が多い企業は、一定期間経過後(2~4ヶ月)『①話しやすさ』『②助け合い』が有意に向上】します。現在、多くの企業がテレワークを実施するにあたって『Web会議ツール』や『勤怠・業務タスク管理ツール』など”伝達・管理”が主軸となったものが脚光を浴びています。それらのツール活用も含めて『チームとして成果を生み出す・改善提案を増やす』ために、そして『離職を防止し、職場の満足度を向上させる』ため。ひいては企業・組織の”経営課題”を解決するためにこそ、組織の『話しやすさ』や『助け合い』を促進する”心理的安全性を向上する施策”の実施が、今後の企業経営には非常に重要な”もう一つの軸”になるのではないでしょうか」
調査結果についての考察:株式会社ZENTech 取締役・チーフサイエンティスト石井 遼介氏
「『0.5pt差があれば差がある。±1pt差があれば大きな差がある』と捉えています。例えば平均点からの0.5ptの差は、いわゆる『偏差値』がおよそ5違う状態、1ptの差は10違う状態だと考えると捉えやすいでしょう。今回の調査においては差異のある数値が多く、様々な企業・チームの心理的安全性スコアを診ている我々にとっても、意義深い結果でした。特に心理的安全性の低さは離職に繋がりやすいことは先行研究からも分かっていましたが、改めて『離職意向』『職場満足』の高低と『助け合い因子』と大きく相関した点については、コロナ禍の現在だからこそ重要なメッセージ性のある数値だと感じています」