今回の考察と予測では、2011年の東日本大震災から10年目を迎え、震災以降、同分野におけるAIの進化を、コンピュータビジョン(画像認識技術)や自然言語処理といったAI技術の事例から読み解いている。
1.東日本大震災から10年、防災・減災のためのAI技術は進化している
東日本大震災の発生以降、大学、公的研究機関など様々な機関において、防災・減災のための研究の質と量が向上した。東日本大震災の被害は90%以上が津波によるものだったが、当時の津波早期警報システムは、安全のためにどのくらいの高さに避難すべきかを予測できていなかった。
現在は、スーパーコンピュータのシミュレータを活用して津波予測のためのAIモデルを学習し、トレーニングデータを生成し、PC上で動作させることができるほど省エネルギー、高精度化している。しかし、津波が起こる頻度が少ないため、このAIモデルを評価し、予測の堅牢性(外部からの影響を受けにくい度合)を把握する機会が少ない点が課題となる。そこで「物理学に基づいたモデリングと機械学習を組み合わせることで、津波や洪水以外にも、山火事や地滑りといった他の多くの自然災害を、より精度高く予測するためにも利用できます」とミン・スン氏は述べている。
2.自然災害の防災・減災に貢献するコンピュータビジョン、自然言語処理
自然災害から人や地域、企業を守る上で、さまざまな規模、種類のAI技術が活用されている。コンピュータビジョンは、衛星画像や航空画像といったリモートセンシングデータ(遠隔地から送られてくるリアルタイムデータ)から洞察を抽出するために広く利用されている。
ミン・スン氏は、「リアルタイムで取得するリモートセンシングデータを、私たちの行動を予測するインサイトに変換するためには、AIが鍵を握ります。将来的には、ハイパースペクトル画像(光を波長ごとに分光して撮影された画像で、様々な分析・研究・産業用途に用いられる画像)のリッチなデータや、航空センサや低軌道衛星からの最新のデータを、AIがさらに活用できるようになるでしょう」と述べている。
3.防災・減災に対するAI活用予測
「リモートセンシングやIoTデバイスを通じて収集される、より多くの有用なデータが必要です。これらのデータを収集し、統一するために5Gなどのインフラへのさらなる投資が必要でしょう」とミン・スン氏は語る。
物理学に基づいたモデリングや従来のリスク管理技術とAIを組み合わせることは、災害の予防、予測、緩和のニーズを解決するend to endのシステムを構築するために重要となる。現在の4Gインフラは、都市部に集中し、地方では十分ではない。農村部において水位や雨滴を感知するIoT機器では確実にデータを同期させるためのインターネット接続環境が悪いといった課題がある。
ミン・スン氏は、こういった課題の解決方法として信頼できるデータソースと、システムを監視・保守する専門家グループの確保を提案している。コンピュータビジョンと自然言語処理といったそれぞれのAIの能力に応じて、最も価値のある行動を見極めるには、それぞれの分野・領域での専門家を活用することで、より効果的・効率的な問題解決が可能となる。研究コミュニティで様々な実験やシステムの試験運用を行っており、さまざまな有望な結果が得られていることから、技術的には準備が整っているといえる。一方で、継続的にサービスを提供するシステム運用には、資金が必要なことから防災や減災には資金面で余裕のある地域が優先される可能性が高いことも指摘している。