大学を休学しスタートアップの世界へ
──おふたりは、桐谷さんが学生のときからのお知り合いだそうですね。
宇田川元一氏(以下、敬称略):前職の福岡県にある西南学院大学で教えていたときの学生でした。僕が担当していた1年生向けの必修の授業を取っていたというくらいの関係ですが、ある日「大学を辞めようかと思っている」と相談に来てくれたんです。僕は「大学自体に疑問を持っている人間は、大学向きだと思う」という話をしました。その後、休学しましたよね?
桐谷豪氏(以下、敬称略):そうです。辞める前に先生のお話を聞こうと思って研究室に行きました。いろいろお話する中で「気持ちは分かった。でも卒業はした方がいいんじゃない?」ということと「本をたくさん読みなさい」と言われたことをすごく覚えています。
宇田川:その後はあまり接点がなかったんですが、3年に1回くらい忘れた頃に連絡があって。
桐谷:先生の本を読みました、とかそんな内容だったと思います。
宇田川:そうですね。それで僕が3冊目の本を出したという頃にChatwork(現kubell)の役員をやっていると聞いて。それまでの経歴も面白いし、Chatwork(現kubell)自体も大きな変革をしているし、一度じっくり話を聞かせてもらいたいと思ったんです。
──休学して何をされていたんですか?
桐谷:休学中に創業期のスタートアップに1人目の従業員として入ったんです。その会社が急成長する過程で、大企業とジョイントベンチャーをつくって新規事業を立ち上げるというような機会ももらい、すごく良い経験をさせてもらいました。
その後、株式会社ABEJAに入り、1年と少しの間データ関連サービスの事業責任者をしました。そして2020年の10月に今の会社に入社しました。
中小企業、非IT企業向けDXで社会を変えたい
──ABEJAはその後2023年に上場しましたね。なぜ転職されたのですか?
桐谷:1社目と2社目でスタートアップを経験して、新しい技術やビジネスモデルを一気に作りあげて世の中に広げていくことにはすごく価値があると、今でも思っています。ただ、スタートアップというある意味では“狭い環境”でビジネスを回しても世界全体が良くなっていないという感覚がありました。日本の産業構造をみても、99.7%が中小企業なんですよね。僕の20代後半から30代にかけて思い切り踏み込んでチャレンジをするなら、この99.7%の領域に対してだ、と考えました。
──そういう経緯だったんですね。
桐谷:中小企業に対して良いものを届けるということを考えると、今の会社以上のところはなかったんです。kubellには「Chatwork」というプロダクトがあり、従業員が5人や10人の会社や町の工場なども含む中小企業にめちゃくちゃ使っていただいているんです。中小企業に何かを届けるには、この顧客基盤を活用しないわけにはいかないし、この会社じゃないと日本のDXを進めることはできないと思って入社しました。
宇田川:「Chatwork」がそれほど中小企業に広まっているのは、どうしてですか?
桐谷:最初は士業のお客さまから広がっていったと聞いています。社労士や弁護士、税理士といった方々がクライアントとやり取りをするのに「メールより便利だから」と。そうするとクライアント側の企業も「これ、便利じゃん。うちの会社でも使おうよ」と導入されていったんです。
LINEやFacebook、InstagramのようなSNSと同様に、ビジネスチャットも周りが使っていると更に便利になっていくというネットワーク効果が効くプロダクトなんですよね。お客さま同士の紹介で、通常のマーケティング施策では届かないような中小企業や非IT企業に届いていったわけです。専門的な言葉では「プロダクトレッドグロース(Product-Led Growth/PLG)」という戦略で、営業やマーケティングなどの活動を全てプロダクト内部で行えるようにする取り組みです。
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