3月10日に詳細が発表されたApple Watchについて、発売前から様々な視点で意見が交わされています。製品に備わったテクノロジーへ好意的にコメントする人もいれば、「革新的なものではなく、延長的なテクノロジーだ」と冷ややかに見る人もいます。いずれの意見にせよ、共通しているのは「テクノロジー」そのものに対する私達の期待です。Apple Watchに限らず、常にテクノロジーは社会の注目を集めてきました。
私個人としては、テクノロジー自体にはあまりこだわりがなく、テクノロジーが私達の暮らしをどう変えてくれるかという点に強い興味があります。テクノロジーの話が時に難しく聞こえるのは、技術的な話が先行してしまい「で、結局何の役に立つの?」という大事な質問に答えていない時があるからではないでしょうか。
本記事では「人や社会の役に立つテクノロジー」という観点に立って、3冊の本を紹介したいと思います。目的は、テクノロジーとは一体何であるのか、なぜ私達の社会にとって重要なのかについて考えるきっかけを得るためです。答えを知るためというより、自分なりの考えを深められるという点で本をピックアップしました。なお、本記事では「テクノロジー」と「技術」を文脈に応じて使い分けていますが、特に断りがない限り両者を同一のものとして扱います。
1.『21世紀の資本』
トマ・ピケティ(著)/みすず書房・刊
1冊目は、過去の膨大なデータを元に経済的な格差について言及したトマ・ピケティの『21世紀の資本』です。本書の主要テーマである「経済的視点」と、ピケティも本書で言及している「社会的視点」の2つから、技術進歩がもたらすマクロ的影響について順に見ていきたいと思います。
まず、「資本の収益率を決めるのは第一に技術(p.221)」であると言われています。資本の収益率とは、建物や特許といった資本から、どの程度の収益を得られるのかを示した割合のことです。農耕社会における革命的な技術の1つは灌漑(かんがい)農業です。以前までは、作物の収穫量は雨が降るかどうかによって左右されていました。しかし、人工的に農地へ水を引く灌漑農業によって、従来よりも安定的に農作物を収穫できるようになりました。技術の導入によって、土地を増やすこと無く収穫量を増大させることができました。このことは、面積当たりの収益率の向上を意味します。
以上が経済的な視点における技術の重要性ですが、もう一方の社会的な視点から技術を捉えると、技術進歩は2つの変化をもたらします。
- 新しい技能に対するニーズの増加
- 技能に関わる新しい職業の誕生(p.318)
現代社会の基幹産業である自動車はさまざまなテクノロジーが集まってできたものであり、特に重要な技術の1つはガソリン・エンジンやディーゼル・エンジンに代表される「内燃機関」です。内燃機関という技術を活用して車を作るには一定の「技能」が必要であるため、自動車の登場は内燃機関を扱う技能に対する社会的ニーズを高めます。それによって、それまでは存在しなかった自動車のエンジンを設計するような「内燃機関を扱う仕事」が誕生することになりました。つまり、雇用の創出です。
このように、技術進歩によって経済的・社会的発展がもたらされる可能性があります。しかし、技術進歩が常に社会をよい方向へ進めるとは限りません。
技術的合理性を追求した進歩が、必ずしも民主的、能力主義的合理性に向かう進歩を意味するわけではない。主な理由は単純だ。技術には市場と同様、限界も倫理性もない。
(p.243)
何も考えないでただ技術の進歩を期待することは避けるべきであり、何らかの目的意識が重要であるといえるでしょう。では何のために技術は存在し、どのような特徴があるのでしょうか。この点について、2冊目に紹介する『テクノロジーとイノベーション』から見ていきたいと思います。