講演者:佐渡島 庸平(さどじま ようへい)
株式会社コルク 代表取締役社長
2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『16歳の教科書』などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社、コルクを設立。現在、『オチビサン』『鼻下長紳士回顧録』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『テンプリズム』(曽田正人)、『インベスターZ』(三田紀房)、『ダムの日』(羽賀翔一)の編集に携わっている。
時代が変わるときに吹くのは“かすかな風”
ワインを後世に残して世界中に運ぶためには良質なコルクで栓をする必要があるように、作家の作品を後世に残し人々に伝えていくためには「コルク」という会社が関わった方がいい――。
そんな想いで名付けられた出版エージェント会社コルクを2012年に立ち上げた、佐渡島庸平氏。『バガボンド』『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』など、講談社で数々の人気マンガを生み出してきた編集者である。彼が大手出版社を辞めてベンチャーを立ち上げたのは、決して会社に不満があったからではない。時代が変わるときに吹く、“かすかな風”を感じたかったからだという。
佐渡島氏がその風を初めて感じたのは、中学時代。親の仕事の関係で、南アフリカ共和国に住んでいたときのことだった。1994年、それはアパルトヘイトが撤廃され、ネルソン・マンデラが大統領になった年である。
「国が大きく変わろうとしている、歴史的なときでした」。彼は当時をそう振り返る。「僕はマンデラの大統領選の日が、すごく特別な日になるんじゃないかと予想していたんです。南アフリカという国の空気が、いつもと違うものになるんじゃないか。そんなふうに思っていたわけです」
しかし、その予想は見事に外れてしまった。朝起きて、いつも通りに過ごして、夜眠りにつく。歴史が変わった日は、いつもと変わらぬ1日だったという。
歴史の教科書や小説を読むと、歴史が変わったタイミングにはすごく大きな変化が起きているような気がする。時代が渦巻いている感じがして、そこから新しい歴史が走り出すんじゃないかと思っていました。
でも、いま思い出してみると、あのとき吹いていた風は“かすかな風”だった。国が変わろう、時代が変わろうとしているにも関わらず、吹いているのはかすかな風。その風を、講談社という会社の中で仕事をしていたら感じることができないんじゃないか。その風を感じてみたい。そんなふうに思ったんです。
そしていまこそ、変化の風を感じる絶好のタイミングだと彼は続ける。「この5年から10年は、大きな変化が起こる最高に楽しい時代。戦後の焼け野原から日本を作り直したように、もう一度新しいものを作り上げられる時代だと思います」。
変化の風を生み出しているのは、もちろんテクノロジーの力である。