14年間過ごしたアメリカから帰国し、日本の法務とのギャップに限界を感じていた
日置 圭介氏(ボストン コンサルティング グループ パートナー&アソシエイト・ディレクター、以下敬称略):この図は、本連載の初回に早稲田大学の入山章栄教授と作ったものです。「これらの要素がうまく噛み合えば、経営のサイクルがうまく回るだろう」と話していたのですが、私は「リスク」も企業経営全般に関わってくる要素ではないかと感じています。今日、児玉さんとお話させていただくことで、もしかするとこの図も変わってくるかもしれません。
私が児玉さんと出会ったのは、アメリカから戻られて数年経った頃でしたよね。まずはこれまでの児玉さんのキャリアについてお聞かせください。
児玉 康平氏(株式会社日立製作所 執行役常務 CLO兼ゼネラルカウンセル兼CRMO兼オーディット担当、以下敬称略):私は1997年にアメリカに渡り2011年に戻るまでの14年間、シリコンバレーの日立アメリカ(HAL)で法務に携わっていました。30代から40代にかけて、一番脂の乗った大切な時期を過ごしましたので、今でもアメリカで身につけた物事の見方や仕事のやり方が抜けません。
日置さんとお会いしたのは2014年で、帰国後にコーポレートで法務をやってからIT部隊の戦略部門に異動したところでした。チームのメンバーにシリコンバレーの人脈を紹介したり、日置さんのような社外の支援者の協力を仰いだりして、「もっと外の世界を見なさいよ」と言っていたんです。正直なところ、その頃は日米の法務におけるギャップの大きさに限界を感じ、もう法務はやめようかと考えていました。
ところが2018年に当時の会長と社長に呼ばれ、「法務のトップをやってくれ」と言われたんです。大変驚きましたが、「本気で法務を変えるつもりなんだな」と感じました。私の“売り”は海外でのM&A、事業投資などを含むいわゆる「トランザクション法務」で、語学はもちろん、“切った張ったの交渉”ができることです。そんな私にトップをやれということは、法務部をグローバル・スタンダードに変えることを期待されているんだなと。法務、コンプライアンス、エンタープライズ・リスク、そして将来的にはオーディット(監査)まで、全部変えてグローバル企業としてのビジネスができるようにするということが目的だと考えて取り組んでいます。