新生VAIOの挑戦
VAIOといえばソニーのブランドPCとしてかっては一世を風靡したマシンだ。そのVAIOが昨年ソニーから分離・独立。かつての革新的な製品を生み続けたソニーのDNAは、新生VAIO株式会社で復活するか? 近々、発売される「VAIO Z」には、これまで以上に先進的なビジネスユーザーやクリエイターの期待が寄せられている。 XPD2015に登壇したVAIO株式会社の商品プロデューサー 伊藤好文氏は、VAIO Z Canvasの開発の経緯について語った。
みなさんご存知とは思いますけれども、VAIOはもともとソニー株式会社の製品でしたが、昨年7月に良い言い方をすると独立しました。以前はVAIOのグループは1000人ぐらいいたんですけど、240人ぐらいになってもう1回新しい会社としてスタートしたのです。今日お話しするのは、VAIO Z Canvasというものです。5月発売予定で、まだ発売されていない商品にも関わらず、ここに立って話して良いのかとも思いますが(笑)。今までやってきたことを少しみなさんに、体験という軸でお話したいと思います。
新生VAIOとして投入する「VAIO Z Canvas」の一番の特長は、クリエイターとのコラボレーションによって生み出したマシンであることだ。「クリエイターとの共創によって新しい顧客価値をつくることを目指した」と伊藤氏は言う。
実は2年ぐらい前にWindows8のリリースの時に、「VAIO Duo 11」というタッチペンがついてる機種を発売しました。PCを持ちながらペンでメモしてるビジネスマンが多いので、その両方を使っているビジネスユーザーのニーズを取り込もうというコンセプトの製品でした。それがきっかけで、クリエイターの方、とくにイラストレーターの方に注目をいただきました。そこからさらに、良い商品がつくれないかといういうのが発端になってます。クリエイターは本来は自由な場所で、発想が起きたところで描けたり作れるべきですよね。しかし創作には、ある程度マシンのパフォーマンスが必要なため、デスクに縛られてしまっていました。そんなクリエイターをデスクから解放して、カフェでも、旅先でもしっかり創作を可能にする。そういう製品の実現を今目指しているのです。
開発については、当初から試作機をクリエイターに供与し、長期に使ってもらい、結果をフィードバックしていくというプロセスをとった。
試作を提供して見て、あらためて感じたのは、自分たちはクリエイターのことをあんまりよくわかっていなかったということです。わたしたちは、主にハードのプロフェッショナルですけれども、やはりソフトウェアのプロと組んだ上で最終的な体験をつくるということが必要だと思ったのです。
ソフトウェア面でのクリエイターのニーズもとりこみたい。そこで、クリエイターに最も近いソフトウェアであるAdobe社のPhotoshopやIllustratorのスタッフにも協力を仰いで、プロジェクトは進んだ。そのプロセスの中での気づきは、今回のVAIOが、クリエイターのワークフローを変える可能性があることだったいう。
たとえば、マンガ家の方々はアシスタントも多く抱えているため、広いオフィス運営が必要です。でもこれがあれば、オフィスのサイズを小さくできるのです。また、アシスタントの方というのは実は複数のマンガ家さんをかけもちするっていう実態があるんです。出先でも自分のマンガの続きをしてもらうとか、他の人に受け渡すときもこの1台を渡すことで続きができる。商品だけではなく、その人の価値観とか、あとはどういう視点をもってつくってるのかということを認識することはとても商品開発にとって大事なんだ、そんなヒントがここにはありました。
コラボレーションにおいては、対話が必要と思われがちだ。しかし、もっと大切なのは作り手と使い手が、「同じ方向を向くこと」だと伊藤氏は言う。
作る人と使う人、対話は最初は必要だと思います。ですが対話はともすれば、表面的になってしまう可能性があるんですね。本当に大事なのは、対話をするということではなくて、そのターゲットユーザーと同じ方向を向けるようになる、もしくは同じ思考プロセスを持つことです。もしユーザーと同じ思考プロセスを持てたとすれば、作り手として、ユーザーの潜在ニーズにまで応えていくことができる。ただ聞いたものだけではなく、それを超えた提案ができることになるのです。