エンドユーザーの利便性を向上させる「組込型金融」とは
初めに、組込型金融(エンベデッド・ファイナンス)とは何か、どこを目指しているのかについて小野沢氏が説明した。
組込型金融とは、これまで金融機関が提供してきた金融サービスを切り離し、その機能を非金融企業の事業サービスの中に組み込むことだ。製品機能のサービス化、いわゆる「as a Service」の金融版で「Banking as a Service」とも呼ばれる。一般企業が組込型金融を導入することで、エンドユーザーの生活に密着したサービスをよりスムーズに提供することが可能になる。2020年にアメリカで登場したことから徐々に広まり、翌年にフィンテックサミットで日銀の黒田総裁が取り上げるなど、日本においてもユーザーの利便性向上やDX推進の一環として同様の流れが到来している。
小野沢氏は、組込型金融がどのような業界構造の中で実行されているのかを、「エンドユーザー」「ブランド」「イネイブラー」「ライセンスホルダー」という四者の関係から説明した。エンドユーザーに最も近く、組込型金融を取り入れてデジタルサービスを提供者する「ブランド」は、強力な顧客基盤を持つ楽天やPayPayなどが該当する。「ライセンスホルダー」は、金融サービスのライセンスを保有、提供している銀行などが位置し、「イネイブラー」は「ブランド」と「ライセンスホルダー」の橋渡し役となる存在だ。
このような構造を小野沢氏は「ホリゾンタルなアーキテクチャで業界が発展するということは素晴らしい。色々なプレーヤーが繋がりあって新しい価値が提供されやすい業界構造になるということは、エンドユーザーにとっても良いことだと思います」と好意的に捉える。
次に、組込型金融でどのようなことが実現されるのか、小野沢氏は活用事例を説明した。給与の前払いサービスの場合、従来であれば
- 給与前払い請求
- 銀行で残高確認
- ウォレットでチャージ
- 銀行で確認
- ウォレットで決済
と、複数のアプリケーションで確認と操作が必要だった。
そこに給与払いのアプリケーションの中に銀行機能やウォレット機能を組み込んでいくことで、ワンストップでの購買が可能になるというのだ。
その他にもクラウドファンディングを活用した支援や不動産テックといった色々な動きが出てきているように、フリクションを減らし、金融サービスが日々の生活の中に溶け込んでいくことが組込型金融の価値の一つだと小野沢氏は話す。