「売上総利益」の継続的な成長を目指した理由
小林賢治氏(以下、敬称略):私が社外取締役として参画させていただいた当時(2020年10月)、資本市場に対して「売上総利益の継続的な30%成長」をコミットされましたね。ほぼ同じタイミングで経営の意思決定の仕組み、ガバナンス体制を変更されています。その意図や背景をお聞きできればと思います。そこには中神さんの「三位一体の経営」の影響もあったとか。
松本恭攝氏(以下、敬称略):それでは、三位一体の経営の中核となる「複利の成長」をラクスルとして体現した「売上総利益の継続的な30%成長」、それを実現するガバナンスへの移行に関してお話しします。
「複利の成長」という観点は、東京証券取引所マザーズに上場した2018年のちょうど2年前ぐらいに、株主でメンターでもあるGMOペイメントゲートウェイ(以降、GMO-PG)の村松竜さん(現・取締役副社長)の助言がきっかけでした。GMO-PGでは、経営の主要KPIを「営業利益25%成長」[1]に設定しています。
その実現の秘訣が「複利の成長」だとおっしゃっていました。というのも、中神さんの『三位一体の経営』にもあるように、「複利の成長」を目指さないと、「額の成長」にとどまってしまうと。では、複利の経営を目指すにはどうすればいいか。まずは「複利の経営とは何か、そしてそれを目指すこと」を宣言することにしました。日本ではMonotaRO社やエムスリー社、GMO-PG社、海外でもGAFAなどのメジャーなテック企業は皆、この複利成長、言い換えるならば“二次曲線的成長”を目指しています。この複利成長企業を目指すことを決断しました。
小林:では、「売上総利益の継続的な30%成長」にコミットした理由は何でしょうか。
松本:経営指標には様々なものがあります。私たちはコントロールしやすい「営業利益」を指標にするのではなく、売上というトップラインの成長を目指しながら、投資額も増やしていく「売上総利益の継続的な成長」を目指しました。
なぜ「営業利益」ではいけないのか。例えば直近の例では、コロナ禍において印刷事業のラクスルは売上が急減した期間がありました。緊急対応として広告宣伝などのマーケティング費用を圧縮したところ、赤字予想だったものを黒字化することができました。ただ、売上成長率は急減しました。このことからもわかるように、緊急措置は別として、営業利益をメインのKPIとしてしまうと、利益をさらなる投資へと振り向けて、その投資でさらに利益を増殖させるという「複利の経営」は実現できないということを経験しました。
印刷事業のラクスルは生産者と購入者の間に立つ印刷プラットフォームであり、購入者からの売上だけではなく、生産者である印刷事業者へ支払った額が付加価値です。会計的な言葉で表現すれば、顧客からの信頼の総和である「売上高」および、顧客・サプライヤーへの付加価値の総和である「売上総利益」の最大化を重視することが必要です。
[1]GMOペイメントゲートウェイ株式会社「2021年 決算説明会資料」(2021年11月12日)