経営哲学の根本にあるのは、資本主義の“歪み”の修正
小林賢治氏(以下、敬称略):ラクスルは人材に対する報い方、さらにはその根本にある経営の哲学に特徴があると思っています。松本さんの「経営哲学の根本」には何があるのでしょうか。
松本恭攝氏(以下、敬称略):経営哲学の根本には大きく2つの基本的な考え方があります。1つは「資本主義の“歪み”を修正すること」です。もう1つは「経営人材は労働視点と長期的な資本の視点を有すること」という観点です。
まず「資本主義の歪みを修正する」に関してですが、起業家自身はビジネスアイデアを持っていて、まずは自分が資本を入れて起業します。その夢を支援する形で同時期に投資家が資本を入れてくれます。IPOを迎えるころには、起業家が創業時に自身で入れた資本は数十倍、数百倍となり、起業家は資本家になっていきます。
スタートアップの成功は、起業家と資本家に富をもたらします。ただし、その価値の多くを生み出し、IPO以降も価値を生み出すのは、資本家ではなく労働者です。今は成功の果実の多くが極端に資本家にもたらされます。これが「資本主義の歪み」です。リスクのある創業期に投資をするので、資本家が利益を得ることは当然ですが、あまりにも偏っています。価値を生み出している労働者が得られる報酬が、労働分配からしか得られない状況は非常に不公平ですよね。この歪みを修正したいという思いが、「経営哲学の根本」にある1つ目の考え方です。
小林:もう1つは?
松本:もう1つの経営哲学の原点は、「経営者は労働と資本の双方の視点を持つ」という考え方です。資本視点では20年~30年の時間軸で企業の現在価値を考えますが、労働視点のみだと単年度のP/L視点でしか経営を考えられません。経営者は両方の視点が必要です。ラクスルが株式報酬を広範囲に付与することにしたのは、経営人材に成長するためには大きく株式を持たないと、長期的な時間軸の経営視点を持つに至らないという考えが根本にあります。株主的な視点で自社の経営を考え、より自分ごととして取り組んでもらうことを意図しています。
小林:今、松本さんが説明された経営哲学の根本にある考え方は、マテリアリティマップにも表れています。そこには「次世代リーダーの育成と複利による報酬還元」と記載されていました。会社が成長することで、そこで働く人たちも資本的リターンを長期にわたり得られるようにしていくことを意識したメッセージですよね。