DX前に必要な「そもそも」の問い直し、理想的な「働き方」
小泉氏が社長を務める、鹿島アントラーズ・エフ・シーは創業から30年の企業だ。2019年に日本製鉄と鹿島アントラーズ・エフ・シーの株式譲渡契約を結んだ当時を「あらゆることが紙ベースで行われており、なにを決定するにも稟議が必要。100人規模とそこまで大きい組織でもないのに決裁者欄に6個も判子が並んでいた。人事制度も完全に年功序列の、すごく硬直化した組織だった」と振り返る。
そのような組織の生産性を上げるべく、現在進行形で改革を進める小泉氏。だが、まず行ったのは、メルカリ社で使っているようなデジタルツールを入れることではない。「本当にこんなに階層が必要なのか」「本当になんでも稟議に上げる必要があるのか」など、その当時は当たり前のこととして行われていた仕事の進め方が本当に妥当なのかを「そもそも」から問い直すことだったという。
「DXはあくまで手段だから、正しいスキームに変えた上で、そこにデジタルツールを入れて加速させるというのが筋。僕は常々、もっと『そもそも』の議論をしたほうがいいと思っているんです」(小泉氏)
その上でいよいよデジタルツールを導入していくわけだが、そこでも「ツールを入れた先にどういった働き方、組織を目指すのか」「それはなぜか」といった「そもそも」をしっかり伝えることが大事だと小泉氏は続ける。
「たとえば鹿島アントラーズでは(情報共有のツールとして)Slackを導入していますが、Slackを入れることがベースにあるわけではありません。情報をシェアすることがいかに大事か、それは正しい意思決定を早くすることが大事だからである、それはなぜか……などと順を追って丁寧に説明し、だからSlackを入れる必要があるのである、というかたちでコミュニケーションを重ねていきました」
先行企業のベストプラクティスを“パクる”
小泉氏は、鹿島アントラーズの運営会社での改革がスムーズに進む際に、メルカリで長年かけて培ったナレッジを持っていたことが大きかったと認めている。たとえば、Slackの運用ルールはメルカリのそれに準じているし、メルカリからの出向者が率先して投稿したりスタンプを押したりすることで、不慣れな社員の模範にもなった。
では、こうしたナレッジを社内に持たない組織はどうすればいいのか。
その場合は、成功している先行企業の真似をすればよい、というのが三者に共通した見解だ。たとえば、メルカリが運営するオウンドメディア「mercan(メルカン)」、SmartHRの「SmartHRオープン社内報」など、知見を惜しみなく公開しているコンテンツ[1]がすでにたくさんある。
「従来のソフトウエアと違って、SaaSは各組織に最適化するカスタマイズを前提としない。その分、ベストプラクティスを業界全体で共有できるのが面白いところだと思います」(福島氏)
[1] メルカリ「メルカリ社内Slack利用ガイドラインを一挙公開しました〜!!#メルカリな日々」(mercan)