EYは、「2023年度版 EY M&A Firepowerレポート(第11号)」を発表した。
同レポートによれば、2022年1月から11月までの、世界のライフサイエンス企業の合併・買収(M&A)取引額は総額1,050億米ドルであり、前年2021年の取引総額から大幅に減少したという。
しかし、年末にかけてジョンソン・エンド・ジョンソンおよびアムジェンの両社が、共に数十億ドル規模の買収を実施したことで、取引総額は急激な上昇に転じた。業界は記録的な水準のファイヤーパワー(企業のM&A実行能力を貸借対照表の健全性に基づいて測定したEY独自の指標)を有するものの、2022年には多くの企業がM&Aを見合わせる選択を取ったとしている。
ライフサイエンス業界のM&Aに対する全般的な警戒感は、広範なグローバルのディール締結トレンドと一致。M&Aに対する世界全体の投資額が2022年に全般的に落ち込んだことは、現在進行中の地政学的緊張により悪化した、マクロ経済上のボラティリティによる不確定な状況を反映しているという。
同調査によると、バイオ医薬品企業が2022年1月~11月に行ったM&Aの取引額は、2021年と比べて42%減少。2022年(1~12月)の最大のディールは、ファイザーが116億米ドルでバイオヘイブンを買収したものとなっている。
バイオ医薬品企業とそのM&A戦略では、アライアンス提携に大きな焦点が置かれているという。しかし、アムジェンが2022年12月中旬に、希少疾患バイオ企業のホライゾンを280億米ドル以上で買収すると発表したことは、ライフサイエンス業界が2023年に大きなディール締結を再開する準備ができている兆候かもしれないと述べている。
医療機器(メドテック)企業は、ヘルスケア業界全体でみられる人手不足など、業界独自の逆風に直面しており、これがコスト上昇と医療機器調達の落ち込みを招いているため、2022年のM&A取引額は前年比で62%減少。医療機器企業のM&Aが多く行われた2021年に続いて、メドテック業界のディールの総額を大きく引き上げるM&Aが、2022年第4四半期に行われたという。それは、ジョンソン・エンド・ジョンソンによる、人工心臓メーカーのアビオメッドの買収で、医療機器企業の2022年のM&A総額のうち、42%に相当するとしている。
世界規模のディスラプションが進行中で、2022年のディール活動が限定的であったにもかかわらず、2022年の終盤で大きなディールが行われたことは、ライフサインエス業界がM&Aの好条件となるような、強い組織構造的要因を有していることを示しているという。規模の小さな会社の企業価値は下落しており、IPOおよびSPAC(特別目的買収会社)の活動が減速している中で、小規模なバイオテック企業や医療機器企業は、株式公開によって資金にアクセスするチャンスが少ないため、買収によるイグジットを求めるインセンティブが大きくなっているとしている。
ファイヤーパワーの蓄えは依然として豊富
バイオ医薬品企業だけで、ディール締結のファイヤーパワーは2022年12月初頭時点で1兆4,000億米ドル以上。現在、買収プレミアムが低下しているため、こうしたファイヤーパワー資金を活用する好機になっているという。また、ライフサイエンス業界には、企業買収を行う根本的な戦略的理由があるとしており、その理由は市場のトップを走るバイオ医薬品の多くが、今後5年間に専用特許権の失効を迎え、安価な後発医薬品(ジェネリック医薬品)やバイオシミラー医薬品との市場競争にさらされるため、業界の主要プレーヤーたちがグロースギャップ(各企業の売り上げ増加と業界全体の売り上げ拡大の格差)に直面するからだと述べている。
また、現在「イノベーション・ルネサンス」がライフサイエンス・セクター全体を席捲しているため、潜在的な買収ターゲット企業が豊富に存在しているという。例えば、細胞治療や遺伝子治療、新型コロナウイルスワクチンで活用されているmRNAプラットフォームといった臨床パイプラインが、この「イノベーション・ルネサンス」に含まれている。
加えて、ライフサイエンス業界が、コネクティドでデータドリブンな「インテリジェント・ヘルス・エコシステム」の実現に向けた進化を続けている中で、各企業は、デジタルテクノロジーおよびAIの進歩のおかげで、バーチャルなチャネルやリモート環境を通して、個別化された治療を提供する機会を得ているという。
ライフサイエンス企業が、すでにポートフォリオに存在する収益性の高い事業部門を守りながら、買収を通して新しい価値を追加しようと模索している中で、企業がディール締結のメリットを最大限にするために取りうる3つの主要ポイントを、同調査は特定しているという。3つのポイントは以下のとおり。
- M&Aのリスクをできる限り取り除く
- 過去にどのようなM&Aがうまくいったのか、その種類と成功の理由を理解する
- 新しく買収した企業とのインテグレーションを行うのに相応しいプロセスを確実に導入する