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事業創造と価値創出のための「アート思考」

3人の大企業の創業者たちによるイノベーションを「アート思考」で読み解く

第3回

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 前回は、経済産業省が「未来人材ビジョン」で示した人材要件を用いて「VUCAの時代におけるアート思考の重要性」について解説しました。第3回となる今回は、アート思考を自然体で実践することで新たな時代を切り開いた日本の歴史的事例を取り上げます。イノベーションはどのような流れで生まれるのか、どのようなタイムスパンで影響を与えているのかを解説します。

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イノベーションを起こしてきた大企業の創業者たち

 1950年代の戦後復興期から1970年代の高度経済成長期までの日本では、数多くのイノベーションが生まれました。当時まだない新たな概念を生み出して市場へ提案し、新たな文化や産業の土台を作った偉業の数々。そこでは、今の日本や世界を支える企業の創業者たちが、呼吸するように「アート思考」を体現していました。日本の未来だけではなく、世界の常識を変え、次の産業の礎を切り拓いた先人たちに倣い「創業者的思考」とも言い換えることができます。

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 まずは、アート思考、創業者思考で新たな時代が切り拓かれた3つの事例と、その中にみられるアート思考のステップをご紹介します。

  1. 安藤百福(日清食品、保存食の再定義):「提供価値再定義」
  2. 石橋正二郎(ブリヂストン、移動距離の新常識の提案):「創りたい世界」
  3. 井深大(ソニー、音楽を聴く環境の再定義等):「創りたい世界」「提供価値再定義」

 それぞれを詳しくみていきましょう。

1.安藤百福(日清食品、保存食の再定義)

 まずは第1回の記事でも取り上げた、「チキンラーメン」そして「カップヌードル」の発明家、安藤百福を取り上げます。彼は「ラーメンは屋台で食べるもの」という常識を取り払い、お湯を注ぐだけで手軽に食べられる「即席めん」という新しいアイデアを創出しました。さらにその後、欧米視察でチキンラーメンを割って紙コップで食べている様子を見て、カップヌードルを開発。ラーメンをどんぶりも箸もない国でも食べられるものとして再定義しました。

 ラーメンの本質的な価値を顕在化させ、未来にその価値を届けるベストな方法を選択した安藤の考え方は、まさしくアート思考のプロセスを辿っているといえるでしょう。

2.石橋正二郎(ブリヂストン、移動距離の新常識の提案)

 ブリヂストン創業者の石橋正二郎は、一貫して「会社は公器である」という信念を持っていたといいます。今という時代を広く捉え、どのように産業の発展が社会への真の貢献になるかを考え、事業へと昇華させることで、その信念を体現していました。それは「勤労階級の履物改良が一番世の中のためになるのではないか」という考えによる地下足袋の製造や、その後のゴム靴製造に表れています。

 信念(自社のオリジン)を起点にした適確な未来洞察力により、石橋はさらに「将来は国産自動車が沢山作られて、500万台、1,000万台と走る時代がくる」という未来を描きました。そして「原材料を輸入するゴム業界こそが、輸出によって外貨を稼がなければならない」という先見性・使命感のもとタイヤ事業に進出していったのです。

 石橋が信念を抱き、それを踏まえた理想の未来像を描くアート思考を持っていたからこそ、ブリヂストンは世界的なタイヤメーカーになっていったといっても過言ではありません。

3.井深大(ソニー、音楽を聞く環境の再定義等)

 トランジスタラジオ、ポータブルテレビ、ウォークマンなど、世界を席巻する商品を生み出してきたソニーもまた、アート思考を実践してきた会社といえます。ソニー創業者の井深大は「人がやらないことをやる」という理念を持っていました。そして、当時スタートアップであった東京通信工業が大企業と競うことは到底できない規模であったからこそ、大企業が手をつけない研究や新製品開発に注力したのです。マーケットに迎合せず、誰もやっていないことだからこそ挑戦するという彼の理念は、目先の変化に影響を受けずに未来を描くというアプローチであり、VUCA時代にフィットします。

 次世代のスタンダードを創ってきたソニーだからこそ、数々の製品が現在も世界中で愛用されています。これは、ブリヂストンの石橋正二郎同様、アート思考の「創りたい世界」というステップに当てはまります。トレンドにマッチした即時的な結果を求めるのではなく、自分・自社の核となる理念を持ちながら未来洞察を行うことでイノベーションを起こし続けている姿は、多くの人が憧れる価値創出の在り方ではないでしょうか。

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この記事の著者

尾和 恵美加(オワ エミカ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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