ガートナージャパンは、2023年のデータ/アナリティクス(D&A)に関するトップ・トレンドを発表した。
D&Aリーダーはこれらのトレンドを指針として活用し、変化を予測し、不確実性を新たなビジネス・チャンスに変えることで、新しい価値の源泉を創出できると、同社は述べている(グローバルでは2023年5月9日に発表している)。
ビジネス・リーダーとITリーダーは、以下のトレンドを自社のD&A戦略に反映させるように取り組むべきだという(図1)。
トレンド1:価値の最適化
D&Aリーダーのほとんどは、D&Aが組織に提供する価値を、ビジネス部門が分かる言葉で説明することに苦労しているという。組織のデータ、アナリティクス、AIのポートフォリオから得られる価値を統合的に管理する能力がなければ、その価値を最適化することはできないとしている。その能力には、価値のストーリーテリング、バリュー・ストリーム分析、投資のランク付け/優先順位付け、ビジネス成果の測定などが含まれ、期待される価値を確実に実現できるようにするという。
トレンド2:AIのリスク管理
AIの利用拡大に伴い、企業は倫理的なリスク、トレーニングに用いるデータの汚染、不正検知の回避といった新たなリスクにさらされており、これらのリスクを軽減することが求められている。AIのリスク管理は、単に規制を遵守するだけではなく、ステークホルダーとの間で信頼関係を築き、AIの採用と活用を促すには、効果的なAIガバナンスと責任ある取り組みが不可欠だとしている。
トレンド3:オブザーバビリティ
オブザーバビリティ(可観測性)は、D&Aシステムの振る舞いを理解できるようにすること、およびその振る舞いに関する疑問に答えられるようにすることを指す。
同社のバイス プレジデント アナリストであるガレス・ハーシェル(Gareth Herschel)氏は次のように述べている。
「組織はオブザーバビリティによって、成果に影響を与える問題の根本原因を短時間で特定できるようになり、信頼性の高い正確なデータを用いて、費用対効果に優れたビジネス上の意思決定をタイムリーに下せるようになります。D&Aリーダーは、ユーザーのニーズを理解し、それに基づいてデータ・オブザーバビリティのツールを評価して、そのツールが企業エコシステム全体にどのように適合するのか判断する必要があります」
トレンド4:データ共有は不可欠
データ共有の対象は、組織の内部(部門間または部門内、あるいは子会社との間)だけでなく、外部(組織のオーナーシップやコントロールが及ばない当事者間または当事者内)をも含むという。組織は「プロダクトとしてのデータ」を作成し、D&A資産を成果物あるいは共有のプロダクトとして共有する。
同社のシニア ディレクター アナリストであるケビン・ギャバード(Kevin Gabbard)氏は次のように述べている。
「組織の外部を含むデータ共有を通じたコラボレーションによって、データ資産を効果的に再利用することもでき、データの持つ価値を高めることができます。組織内外の多様なデータ・ソースにまたがったデータを共有するための単一アーキテクチャとして、データ・ファブリックを設計して採用すべきです」
トレンド5:D&Aのサステナビリティ
企業のESGプロジェクトにおいて、D&Aリーダーが分析と知見を提供するだけでは不十分だという。D&Aリーダーは、サステナビリティを向上させるためにD&Aのプロセスを最適化するよう努める必要もあるとしている。D&AやAIに携わる人々の間では、増大するエネルギー・フットプリント(環境負荷)への意識が高まりつつあり、その結果、(クラウド)データセンターでの再生可能エネルギーの利用、エネルギー効率の高いハードウェアの使用、スモール・データをはじめとする機械学習(ML)手法の活用など、さまざまなプラクティスが登場しているという。
トレンド6:実用的なデータ・ファブリック
データ・ファブリックは、あらゆる種類のメタデータを活用する、データ管理デザイン・パターンの1つ。データ・ファブリックは、基礎となるデータのセマンティクス(データの持つ意味)を拡充するために、メタデータの状況を継続的に確認していくことによって、人とシステムの両方が役立てられるようなアラートや推奨事項を生成するという。これにより、ビジネス・ユーザーはデータを信頼して利用できるようになり、スキル・レベルの低い市民開発者も幅広いデータに対する統合やモデリングができるようになるとしている。
トレンド7:創発的なAI
ChatGPTなどのジェネレーティブAIは、来るべき創発的なAIのトレンドにおける先駆けと言える。創発的なAIは、拡張性、多能性、適応性という点で、多くの企業の活動に変革をもたらす可能性があるという。組織は次なるAIの波によって、現在では実現不可能な状況でもAIを適用できるようになり、AIの普及が加速して重要性が増すという。
トレンド8:コンバージド・エコシステムとコンポーザブル・エコシステム
D&Aのコンバージド・エコシステムは、D&Aプラットフォームのシームレスな統合、ガバナンスの適用、テクノロジの相互運用性を通じて、それが一体的に動作/機能できるような設計とデプロイを行う。エコシステムのコンポーザビリティは、コンポーネントとして構成できるようにアプリケーションとサービスを設計し、それらを組み立て、デプロイすることで実現するとしている。
適切なアーキテクチャを採用することで、D&Aシステムのモジュール性、適合性、柔軟性が高まり、動的に拡張できるようになるという。また、D&Aシステムの合理化が進み、拡大と変化を続けるビジネス・ニーズに対応するとともに、ビジネス/運営環境の変化に合わせた進化が可能になると述べている。
トレンド9:消費者がクリエーターに
同社は、現在主にBIツールで実装された事前定義済みのダッシュボードに向き合っている時間は、動的に構成される会話型、あるいは組み込み型のユーザー・エクスペリエンスに取って代わられると予測している。そうなることで、コンテンツ消費者それぞれの常に変化するニーズに対し、柔軟に対応できるようになるとしている。
組み込み型で即時性の高い知見や、会話型のインタラクティブなエクスペリエンスを提供することで、組織におけるアナリティクスの活用と成果の獲得を後押しできる。こうした知見やエクスペリエンスは、コンテンツ消費者が、この先においてコンテンツ・クリエーターとなるために必要不可欠だという。
トレンド10:主要な意思決定者は依然として人間である
すべての意思決定を自動化することはできず、またその必要はないという。
ハーシェル氏は次のように述べている。
「意思決定における人間の役割を考慮せずに、意思決定の自動化を推進しようとすると、一貫した目的を見失った組織になってしまいます。それは、正しいデータ・ドリブンな組織とは言えず、結果的にビジネス成果に悪影響を及ぼすかもしれません。データ・リテラシーの向上施策を通じて、データとアナリティクスを人間の意思決定と組み合わせる重要性や価値について、組織全体で理解するようにしなくてはなりません」
シニア ディレクター アナリストの一志達也氏は次のように述べている。
「ジェネレーティブAIは、D&Aに対しても大きな影響を与えており、この先さらに影響範囲は広がっていくでしょう。恐れるのではなく、正確に理解して倫理的に正しく活用して、革新的な新技術の価値を企業活動に反映する必要があります。そのためには、ガバナンスやリスク管理の徹底は避けられませんし、データ共有やデータ・ファブリックの構築、D&Aプロダクトの開発と資産管理が求められます。何より、AIを使いこなす人間としてリスキリングに取り組み、組織の全体的なリテラシー向上を目指すのがD&Aリーダーに課せられた使命と言えるでしょう」