昭和電工と旧 日立化成の統合の裏にあったIPランドスケープ
2023年1月に、昭和電工と昭和電工マテリアルズ(旧 日立化成)の統合によって誕生したレゾナック。2019年12月に日立化成の買収を発表してから、完全な統合までに3年かかった。「それなりに大変な3年間ではありましたが、とても良い経験でした」と語る増嶌氏は、統合までの道のりを順に紹介した。
統合には大きく4つのフェーズがあったという。1つ目は、公開買い付け発表の前後、2019年から2020年前半までの「M&A検討」フェーズ。2つ目は、TOB成立から日立化成が昭和電工マテリアルズへ社名変更する時期を含む、2021年半ばまでの「情報共有」フェーズ。そして3つ目は、“統一CxO体制”へと体制変更を行なった「仮想統合」フェーズ。最後に4つ目は、2023年(レゾナック誕生)からの「新生」フェーズだ。
この統合の裏では、IPランドスケープがフル活用されていた。レゾナックでは、IPランドスケープが指すものを広く捉えており、知財部門が出す分析・情報はすべて「IPランドスケープ」であるとしている。それぞれのフェーズでどういった取り組みが行われたのか。
まず、M&A検討フェーズ。実は同社の知財部門は、日立グループが日立化成の売却を検討しているという噂が世間で流れ始めていた時点でIPランドスケープを行っていた。「もし昭和電工が日立化成を買収したら」というストーリーを組み、どんなシナジーが期待できるかを検証したという。
昭和電工は「作る化学」を得意としていた。元々、総合科学メーカーとして原材料を作る工程・技術に強みを持っていたのである。一方、日立化成が得意としていたのは「混ぜる化学」、すなわち機能性化学メーカーとして、原材料を混ぜて機能を設計することに長けていた。
知財部門が行った検証の結果、昭和電工と日立化成が統合すれば、両社が強みを持つ「半導体・電子材料」「モビリティ」「イノベーション材料」「ケミカル」の4つの事業セグメントにおいて、「作るところから混ぜるところまで」を統合する、成長性の高い“スペシャリティケミカル”へと生まれ変われる可能性を見出すことができた。
また、シナジー効果の分析に加えて、他社が日立化成を買収した場合の昭和電工へのリスクも可視化。その結果、他社に買収されてしまった場合、昭和電工のポジションが危うくなる可能性があることも明らかとなった。
特許情報をフルに活用して導き出したこれらの分析結果を上層部に提出すると、ちょうど経営企画部門でも日立化成の売却に対して対応を検討するタイミングだったために、客観性と網羅性を持つ情報を知財部門が出してくれたことに喜んでいたという。
この件を契機に、IPランドスケープの有用性が社内に知れ渡ることとなる。以降、小規模なM&Aを検討する際には、知財部門に「IPランドスケープをやってほしいという」声がかかるようになったと増嶌氏は語る。