最適な人員配置の効果、必要なデータを揃える上での課題
ここまで、最適な人員配置の必要性を説明してきたが、それはどのくらいの効果をもたらすものだろうか。
里井氏はそんな疑問に対して、HR総研とSmartHRが共同で実施した「人事異動・配置転換の実施に関するアンケート[3]」を紹介する。このアンケートは人員配置で成果が出ていると感じた企業が、事業の成果の観点でも、働きやすさや働きがいの観点でもスコアが上がっていたことを示している。
また、里井氏は経済産業省の「深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命[4]」の中にある、従業員数82名の製造企業の例も紹介した。この企業には受注案件の偏りによって特定部署担当に業務が集中する課題があったが、従業員のスキルを棚卸しし、部門長が習熟度を3段階で評価してスキルマップを作成し、受注が増加している業務に対しては、スキルマップを基に部門長が人材配置をするという施策を行った。その結果、年間の1人当たりの平均総労働時間が100時間削減されたという。つまり、最適な人員配置には大きなメリットがあると言えるのだ。
では、どうすれば最適な人員配置ができるのだろうか。それに必要なのは労務データと人事データである。労務データとは、入社手続きや身上変更などで得られるような氏名、在籍情報、部署、役職、性別、雇用形態、その他、転居を伴う異動などで考慮される家族情報や住所などである。一方、人事データはスキル、資格等級、評価結果、キャリア希望、そしてエンゲージメントなどだ。
しかし現状、ほとんどの企業の労務・人事データは「ばらばら、ぐちゃぐちゃ、まちまち」という状態である。業務や部署ごとにデータがばらばらに保存されていてどこに何があるかわからなくなっており、入力間違いがあったり記載方法が統一されずにぐちゃぐちゃになっていて整理に時間がかかったり、データの取り方や取得タイミングがまちまちで、他部署連携して使える項目が少ないケースが非常に多い。
これらの原因となるが「紙での運用」である。入社手続きや身上変更報告を紙ベースで行ったり、製造業だと重要度が高い資格に関して証明書とセットで提出することになっていたりする。しかし、紙での運用には情報のデータ化に時間がかかり、転記ミスも起こる。人手不足により、手が回らないケースも多い。さらに人事データとして必要なキャリア希望は、面談した上司の頭の中だけに残っていることも多い。
それを解決するためには、人事労務業務のDXを行うことでデータを一元管理できるようにすることが必要だと里井氏は説明する。
[3]HR総研、SmartHR『7割が「異動・配置転換」での育成効果を実感。「人事データ活用」で得られる手応えとは』
[4]中小企業庁「第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命」(『2018年版「中小企業白書」』(2018年4月20日)