大幅な組織改編が必要とは限らない。すぐに実践できる工夫
「こうした問題は、フォーマルな組織構造だけでは解決できないというのが私の考えだ」と西内氏は語る。組織体制を大幅に変更しなくとも、インフォーマルなやり方で対応することも可能だという。
たとえば、独立性の強い事業部制あるいはカンパニー制をとっている企業や、全社横断的な社長直属の分析組織を設置している企業ではどうか。この場合、分析組織の内部でメンバーそれぞれが担当する事業部を決めるだけでも、大きな変化が期待できると西内氏は説明する。
また、データ分析担当者が各事業部への業務理解を深め、定例会議や懇親会にも出るなど頻繁にインフォーマルなコミュニケーションを設計すれば、「外部のよく分からない人」から「身内の話が通じる相手」として見てもらえるようになるかもしれない。そうすれば、事業部内で相談される機会が生まれ、データ分析者からの視点が意思決定に反映されやすくなる。
トップダウンでの意思決定が強い組織ならば、経営層を交えた定期的な分析結果と改善案の報告会を頻繁に行うことが重要だ。部門ごとに持ち回りで分析結果を経営層に伝え、フィードバックを受ける。自分の担当する回でなくとも、他部門へのフィードバックを聞くことができれば、経営層の狙いや判断の軸が分かってくるはずだ。また、学習や事例共有のための勉強会を全社的に組織すれば、困ったときに相談できる横のつながりが生まれ、課題解決力も高まっていくだろう。
「目的なきデータ活用プロジェクト」に陥ってしまう危険性
加えて西内氏が頻繁に受けるのが、「業務部門からどんなデータ分析を依頼すべきかわからない」「データ分析の手法は学んだが、どう業務に活かすべきかわからない」という相談だ。この状態のままプロジェクトが始動すると、闇雲なデータ収集に走り、目的も定かでないままデータカタログやデータレイクなどをつくってしまいがちだ。手間がかかる上、実際にアウトプットも生まれるので、一見「データ活用基盤構築プロジェクト」をやり遂げたように見えるが、実際は使い物にならず、莫大な時間と費用が無駄になってしまう場合が多い。
これを避けるために重要となるのが、意思決定者との目的の共有だ。経営者や各部門のリーダーたちが自社の戦略やビジョンをどう理解しているかを把握した上で、「目的から逆算してデータを見ることが重要だ」と西内氏は強調する。
目的がクリアになったら、それに応じて社内外でデータを探し、手に入れる。そうして初めて、データと目的のギャップを埋めるものとして分析をする必要性が生まれてくる。分析結果が出たら施策立案までを支援し、具体的な施策が定まってようやく、企業としての意思決定が進んでいくのである。無事に最初の施策が実行されたら、分析のサイクルをさらに高度にすべく、データ収集の精度を上げていくのだという。