事業創造への取組みは、従来型からリーン型へ
ブランク氏は、事業創造への取り組み方について、従来型(Traditional)とリーン型(Lean)を図表5、6のように対比した。「従来型はビジネスプランの実行が主だが、リーン型は仮説の検証を進めてビジネスモデルを探索する。従来型はプロダクト開発が主だが、リーン型は顧客開発に注力し、会社の外に出て仮説をテストする。製品開発マネジメントについて、従来型は初めから仕様が分かっていて何をやるか確定しているが、リーン型は顧客開発により顧客ニーズを理解していくにつれ段階的に開発するというアジャイル方式をとる。従来型では当初から営業担当VPなど経験あるシニア人材を雇うが、リーン型では顧客開発をやるチームが仮説を検証してビジネスモデルをつくってから、実行に移るときに必要な人材を雇う」と、ブランク氏は、従来型から脱皮してリーン型を実践すべしと指摘する。
さらに、数値管理、失敗、スピードについて、「従来型は損益計算書、バランスシート、キャッシュフローといった定番の会計指標で経営するが、リーン型は顧客獲得ほかビジネスモデルを検証し改善するための指標に注目する。従来型は売上がよくなければ営業担当VPをクビにして、失敗から失敗に堂々巡りするようなものだったが、リーン型では小刻みな失敗からすばやく修正する。従来型はデータが揃ってから意思決定するが、リーン型では意思決定するに足るデータがあれば、待たずに前進する」とブランク氏は指摘する。
実践的教育プログラム「リーンローンンチパッド」
こうした新事業についての新たなアプローチについてブランク氏は、教育プログラム「リーンローンンチパッド」として提供している。同プログラムは、スタンフォードやUCバークレーなどの大学で教えられており、ブランク氏は、2009 年スタンフォード大学マネジメントサイエンスエンジニアリング学部教育者賞、2010年カリフォルニア大学バークレー校Earl F Cheit 優秀教育者賞を受賞している。また、全米科学財団(NSF)に採用され、米国の大学発技術の商業化のためのトレーニングプログラム「Innovation Corps(I-Corps)」として展開されており、UDACITYなどオンラインでも提供されている。プログラムは、数日の短期から数週間のものまで各種あるが、いずれもインストラクターのサポートを受けながら、リアルタイムで顧客から学び、ビジネスモデルを改善していく実践的なものだ。
ブランク氏は、分かりやすい例として、5日間での短期プログラムでのスポーツ・ファンに向けたユニホームのレンタル事業案に取り組んだ大学生チームのプロジェクトを紹介した。このチームは、様々なタイプの顧客候補やユニホームのメーカーなどに対面インタビューを169回重ね、仮説を検証してビジネスモデルの修正・改良を進めた。
はじめは男性向けに年会費制を考えていたが、ヤンキースタジアムやスポーツ用品店でのインタビューから、女性への一回ごとレンタルの形も可能性ありと分かるなど、毎日ビジネスモデルがよくなっている様が示された。そして、このユニホームのレンタル事業は、最終日までに二件の注文を取ることができたという。なお、UCバークレーでのプログラムでは、大学生チームが43万ドル(約4千3百万円)を売上げた例もあるそうだ。
ブランク氏はこのプログラムについて、「これはプロセスであり、教育できる」と強調する。これまでとは異なるやり方だが、「日本でもできるはず」とカンファレンス参加者を激励し、米国で既に始まっているStartup Weekend NEXTが日本でも4月から「第1回Startup Weekend NEXT in Tokyo 顧客視点を徹底的に身に付けるための5週間」と題して開催されると告知した。
ブランク氏が開発した実践的起業教育プログラムが、日本でもさらに活用されることを期待したい。