なぜ「ユーザーの声」は当てにならないのか?
ニーズは大きく分けて 2つにわかれる。1つが「オープン・ニーズ」、もう1つが「クローズド・ニーズ」だ。 氷山にたとえれば、海面上がオープン・ニーズ、海面下がクローズド・ニーズとなる。
両者の決定的な違いは、「ユーザーが言語化できるかどうか」にある。前者は自覚があるため、「今何が必要か?」と聞かれれば、「これぐらいのサイズの机が欲しい」「こんな色の携帯アクセサリーが欲しい」と、すぐに答えが返ってくる。
一方のクローズド・ニーズは自覚できていないため、質問されてもうまく答えられない。
こんな例がある。新しく高校1年生になった女子生徒が「健康食品に興味がある」と言っていた。しかし、実際の行動はジャンクフードを口にしながら友達と楽しそうに会話をしていた。
これはどういうことだろうか?実際には、彼女は食品や健康に対するこだわりはなかった。単に「健康に興味がある」という発言によって、自分が所属するコミュニティやグループから、「仲間である」と認められたかっただけだ。
彼女の言葉を表層上でとらえたレストランオーナーがいたとする。「健康なイメージを持たれるお店をつくるには?」という課題設定をするかもしれない。しかし、実際のニーズを踏まえれば、「友達と会話が弾むお店を作るには?」といった課題設定がより適切となる。
クローズド・ニーズには、ユーザーの周辺環境やユーザーの立場・状況などが関わってくる。デザイン思考では、このようなニーズを「インサイト」と呼んでいる。
図表2のように整理すると、「ニーズ」は言語化できるもの、「インサイト」は言語化が難しいものとなる。ただ、インサイトとニーズは、高校生の例のようにまったく離れている場合もあれば、両者の違いがあまり明確でない場合もある。「言語化ができるかどうか?」はあくまで一つの目安と言える。本質的に重要なのは、ユーザー中心の視点に立つことだ。