2021年の新体制スタートを見据え、事業横断型のデザイン組織を組成
岩嵜博論氏(以下、敬称略):紙媒体のメディア事業を出発点に、数々の組織変革、事業変革を成し遂げてきたリクルートは、国内企業のなかでも稀有な存在です。本連載の「大企業が組織的にデザインを実践し、組織を変革するには」というテーマに、とても親和的な企業だと思っています。本日はリクルートのデザイン組織の変遷や機能をお伺いしますが、まずはお二人の自己紹介をお願いします。
萩原幸也氏(以下、敬称略):私はTVCMやWEB広告などを中心としたブランドコミュニケーションを担うマーケティング室のブランドプランニングユニットのクリエイティブディレクション部でクリエイティブディレクター兼部長を務めています。
リクルートへの入社は2006年です。学生時代は美大でグラフィックデザインや編集、さらに現在でいうところのUI/UXを学び、入社後には「じゃらん」「ホットペッパーグルメ」「タウンワーク」などのクリエイティブに従事しました。その後、ブランディングやサービス開発、デザイナーのマネジメントなどにも携わるようになり、「受験サプリ」(現「スタディサプリ」)や「Airレジ」などのブランド開発を担当しました。
磯貝直紀氏(以下、敬称略):私は事業横断でプロダクトデザインを担当するプロダクトデザイン室のデザインマネジメントユニットで部長を務めています。経歴としては、工科大学の大学院を卒業後に総合デザインファームに新卒入社。公共デザインやデザインマネジメントなど、幅広いデザイン業務に従事したのち、2015年にリクルートテクノロジーズ(現在は株式会社リクルートに吸収合併)に中途入社しました。その後は、現在の所属であるデザインマネジメントユニットの立ち上げなどを主導しています。
岩嵜:リクルートは2021年に子会社7社を吸収合併するなど、組織再編に積極的です。デザイン組織の成り立ちや変遷についてお聞かせいただけますか。
磯貝:現在の組織体制としては、「デザインマネジメントユニット」と「ブランドプランニングユニット」という2つの組織はデザインやクリエイティブを担う組織として事業横断型で設置されています。「デザインマネジメントユニット」は、主にプロダクト開発やデザインを手がけるほか、デザイン戦略やデザイナーの評価システムの策定など、リクルートにおけるデザインの価値最大化を図ります。設立当初は7名ほどでしたが、現在では80名以上が在籍しています。
一方で、「ブランドプランニングユニット」は各事業や各プロダクトのブランドコミュニケーションを担当します。その中のクリエイティブディレクション部では、TVCMやWEB広告の制作を担うほか、社内におけるデザインの知見蓄積もミッションとしています。
現在の体制のポイントは、やはり事業横断型、もっと言えばマトリクス型組織だという点です。従来は、複数の事業領域に並立していたデザイン組織ですが、事業を兼務するマトリクス型の体制を敷くことで、社内の単なる下請け組織ではなく、事業へのコミットをより意識できるようになります。そのことで、デザイナーが事業やサービスへの「当事者意識」を持って取り組むことができています。
萩原:現在の組織体制に至る一つのきっかけが、2002年の制作部門の分社化です。それまでは、本社内にメディア制作局という制作部門が設けられていたのですが、その部門が「リクルートメディアコミュニケーションズ」として子会社化されます。
その際にリクルート側にもクリエイティブの組織が必要だとして設立されたのが、私の所属する部門です。しかし、当時の生活者との接点は弊社の情報誌やフリーペーパーなどのメディアと、マス広告が大半でしたから、WEBサービスを含むデジタルへの対応はできていませんでした。この体制が2000年代半ばから10年以上継続するのですが、そのなかでは課題に直面することがしばしばありました。
例えば、2010年代からは各プロダクトのデジタルシフトが進みますが、磯貝の組織が設立するまでは、プロダクトのデザインを横断で担う組織は存在しませんでした。