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組織戦略としてのデザイン

なぜ『デザイン白書2024』では5つの領域のデザインを混ぜたのか──デザインを“閉じずに開く”意味

【後編】ゲスト:公益財団法人日本デザイン振興会 常務理事 矢島進二氏

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 前編に引き続き、本記事では公益財団法人日本デザイン振興会(以下、JDP)で常務理事を務める矢島進二氏に、同会発行の『デザイン白書2024』について聞いた。経済産業省デザイン政策室監修の同レポートには地域や企業におけるデザイン活用事例が120以上収録されている。先端的かつ多種多様な事例群はビジネスやイノベーションにどのように貢献するのだろうか。同レポートの活用法や期待される効果を聞いた。聞き手は、連載ナビゲーターの武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授の岩嵜博論氏。

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地域を「市場規模」ではなく「イノベーション資源」の観点から注視する

岩嵜博論氏(以下、敬称略):『デザイン白書2024』には、地域、企業、行政、文化とそれぞれの領域におけるデザイン活用の事例が120以上収録されています。これだけの事例を統合的かつ幅広く掲載しているレポートは他にありません。

矢島進二氏(以下、敬称略):なかでも特に好評なのが「地域」のパートですね。ご一読いただけるとわかりますが、地域におけるデザイン活用の事例は非常にバラエティに富んでいます。北は北海道から南は沖縄まで、47都道府県における多様なプレイヤーが、地域の事業者や行政などと連携し、数々のユニークなプロジェクトを展開しています。しかし、これまで情報発信の場が限られていたこともあり、それぞれの認知度はそれほど高くありませんでした。『デザイン白書2024』は、そうしたビビッドな事例を広く発信する役割も担っています。

岩嵜:これからの時代は、企業も地域におけるデザインやイノベーションの活動を注視するべきだと思うんです。というのも、時代が大量生産から多品種少量生産に移り変わっていくなかで、企業のビジネスモデルも「大きく始めて、大きく展開する」から「小さく始めて、大きく育てる」にシフトチェンジしていくはずです。

 しかし、多くの企業は「小さく始める」の方法論に精通していません。メーカーで例えれば新製品を数千個や数万個と量産することで利益が出るといった大量生産型のビジネスモデルに慣れているからです。近ごろ、大企業のスタートアップ投資が流行しているのは、「小さく始める」を補完するためだと思いますが、いずれにせよ今後はそうした方法論に習熟していく必要があります。そのときに、地域におけるデザインの事例が参考になるのではないかと。

矢島:それは間違いないですね。『デザイン白書2024』で紹介されている地域の事例には、利用者視点やユーザフレンドリーを重視したプロジェクトが非常に多いです。また、住民参加による共創型のデザイン事例も数多く、大企業的なプロジェクトでは抜け落ちてしまいがちな要素が詰まっています。それは世界的なデザインの潮流とも軌を一にしていますし、むしろ先進的にデザインを活用したいのであれば、地域の事例に目を向けたほうがよいのかもしれません。

岩嵜:そのときに重要なのが、「地域を市場として見ないこと」だと思います。そうではなく、「地域をイノベーションの資源だ」と見るべきです。地域は人口も少ないですし、市場規模もそれほど期待できません。しかし、地域で創出したイノベーションをグローバル市場で展開すれば、結果として大きなビジネスに成長することもあります。それは今後、人口が減少していく日本が実行できるイノベーション戦略の一つだと思うんです。

 例えば、先日、岩手に拠点を置く「ヘラルボニー」が、ルイ・ヴィトンなどのブランドを傘下に持つLVMHのイノベーションアワードでカテゴリ賞を日本企業として初めて受賞しました。ヘラルボニーは知的障がいのあるクリエイターが制作したアート作品をIPビジネスで展開するスタートアップなのですが、岩手発のローカルな企業ながら今や世界的に高い評価を受けている。こうしたアプローチこそ、地域におけるイノベーションのモデルケースではないでしょうか。

矢島:昨今はデジタル化の進展により、日本全国のどこにいてもグローバル市場とダイレクトに繋がることができます。むしろ、東京や大阪のような大都市では希少価値に乏しく、地域を拠点にしていることの方が優位性になる局面も増えつつあります。時代の潮流を踏まえても、地域の事例に学ぶことは多いでしょうね。

矢島進二
公益財団法人日本デザイン振興会 常務理事 矢島進二氏

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この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

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