企業が紡いだ歴史は「イノベーションの手段」であり「共感のシンボル」でもある
木村:そのほか、私がエフェクチュエーションで注目するのが、手持ちの手段を起点にアイデアを発想する「手中の鳥の原則」です。これには長年マーケティングに携わりながら感覚的に理解していたことを、明確に理論化してくれたような気がしました。具体的な例を挙げると、アーモンドミルクの「アーモンド効果」は、まさに「手中の鳥の原則」に基づいて開発されたと思います。
このときポイントになったのが「歴史」です。日本でアーモンドが広く知られるきっかけになった一つが、1955(昭和30年)の「アーモンドグリコ」と1958年(昭和33年)の「アーモンドチョコレート」の発売だったと思います。それらは創業者がアーモンドのおいしさと健康の要素に着目して発売した製品でした。つまり、江崎グリコにとって、アーモンドは歴史的に意味のある原材料なのですが、そもそもアーモンドは輸入原料であり、社内では「原料としての差別性に乏しい」という意見が多かったのも事実です。