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デロイト トーマツ 寺部氏が挑む量子分野のエコシステム創出──日本の量子産業の“現在地”

第1回 ゲスト:寺部雅能氏

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3社で量子分野に携わってきた寺部氏が見る量子産業の現在地

──まずは寺部さんの自己紹介とともに量子分野に携わるようになった経緯をお聞かせください。

寺部雅能氏(以下、寺部):現在はデロイト トーマツ コンサルティングで量子技術総括を務めています。量子コンピューティングはデジタル技術に次ぐ大きな社会変革を引き起こすと信じています。しかし、技術の完成やユースケースの発生だけでは、産業やビジネスにはなりません。必要なのは、技術と投資の流れがうまく噛み合うことです。そこで、デロイトのような立場からエコシステムを作る挑戦に取り組んでいます。

 量子分野に携わるようになったのは、9年前、自動車系メーカーにいた頃です。当時、自動車業界は大きな変革期にあり、“モノづくり”から“コトづくり”へのシフトや、内燃機関から電気自動車への変化が求められていました。技術を基点にしたビジネス創出が変化のドライバーになりうると考え、量子技術に注目しました。当時の日本では、量子技術はまだアカデミアでのみ扱われていましたが、産業的な応用に挑戦したいと考えたのです。

 量子コンピュータのポテンシャルを活かせれば、生産系では工場ラインのオペレーション、交通系では渋滞解消や、MaaSにおける配車、バスの運行スケジュールの最適化が見込めます。自動車・交通業界での数%の効率改善が大きな経済的効果をもたらすと考え、量子コンピューティングによる工場の最適化に取り組みました。これは世界の自動車業界でも先駆けての試みでしたが、その後、多くの企業が追随しました。その様子を見て、様々なビジネスを展開する企業であれば、同様の取り組みで産業全体を変革できると確信し、2020年から総合商社に移り、量子関連プロジェクトを立ち上げました。

 2023年からはデロイト トーマツ コンサルティングで量子技術のユースケース創出、ソフトウェア技術研究、エコシステム形成に取り組んでいます。これまでの取り組みとの違いは、グローバルと日本の量子産業、技術と資金をつなぐという狙いにあります。

──量子領域の国内での情勢についてお聞かせください。

寺部:現在の量子の世界は、30年前のインターネット黎明期のような状況です。技術は存在し、ある程度の用途も想像されていますが、普及後の世界はまだ明確には見えていません。このタイミングで未来の成功を目指して起業や技術開発を進める人々が多くいますが、具体的に何をすればよいのかはまだ見えにくい状態です。

 日本市場を見ると、多くの産業を抱えるGDPの大きな国であるため、量子コンピュータのソリューションが求められる領域も多く、大きなアドバンテージがあります。現在は、大企業やスタートアップ、アカデミアなど様々なプレーヤーが量子領域に関わっており、一般社団法人量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)という業界団体には90法人以上の会員が集まっています。

 アカデミアでも政府の予算がつき始め、関連拠点が11個程度立ち上がるなど、動きが活発化しています。また、日本は量子分野を長く研究している方々が多く、海外からの評価も高いです。特に、東京大学や慶應義塾大学、大阪大学の名前がよく挙がります。産業創出でもアカデミアの存在は重要です。技術を読み解く際や人材育成の際にも、日本語が通じる専門家がいることは大きなメリットとなります。

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この記事の著者

雨宮 進(アメミヤ ススム)

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