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ベネッセのDX組織が体現する顧客体験の分断の乗り越え方。横串組織はべき論ではなくQuick Winを

【前編】ゲスト:株式会社ベネッセホールディングス Digital Innovation Partners 副本部長 水上宙士氏

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小さな成果の積み重ねが組織の縦割りを打開するカギになる

藤井:いろいろとお話ししたのですが、顧客体験と事業横断型の組織について、水上さんのお考えがあればお聞きしたいです。

水上:大変よくわかりますね。ベネッセは、幼児から高齢者まで事業ごとにターゲット層がバラバラなので、あらゆる事業やサービスの顧客体験を繋げる必要はないです。ただ、顧客一人ひとりのLTVを高めるためには、事業横断のカスタマージャーニーを描く必要があるというのはその通りだと思います。

 そのため、DIPでは、まだ道半ばではあるのですが、各事業部のシステムや保有しているデータを可視化する取り組みを進めています。どの部門が、どのようなシステムに、どんなデータを、どれくらい保有しているのかを可視化するダッシュボードを構築することで、他部門の状況を見える化するのが狙いです。

 また、企画についても同様の取り組みを進めていて、業務管理プラットフォーム上に作成した全部門共通のテンプレートで企画やプロダクト開発を管理することで、どの部門でどんな取り組みが進んでいるのかを明らかにしています。

 「社内の状況を可視化する」というのは基本的な活動かもしれませんが、そうした環境が整っているからこそ「隣の部門のこのサービスと顧客体験を連動させよう」や「他部門と重複した機能の開発はやめよう」といった判断が可能です。その意味では、データや企画の可視化は、顧客体験戦略の第一歩なのではないでしょうか。

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藤井:素晴らしい。私自身、数多くの企業の顧客体験設計を支援してきましたが、「他部門の動きがわかる」というのは重要なポイントなんです。データや企画が詳らかにされて、全員が同じ状況を共有しているから、顧客体験を連動させるべきポイントが見えてくるし、部門間の合意も取りやすくなります。

水上:そうなんです。ただ、ベネッセの場合は個別の顧客接点を繋げる活動が先にあって、その成果が積み重なった末に、データの可視化といった組織ぐるみの活動が進んだ経緯があります。DIPは2021年に設置されて以来、事業やサービスに隠れている機会を探索して、顧客体験として連動させる活動を続けていました。

 例えば、進研ゼミと学習塾の連動です。進研ゼミの会員が退会する主な理由の一つに「学習塾に通うため」があります。ベネッセは学習塾も展開していますから、進研ゼミの退会のタイミングは、学習塾の部門にとっては営業機会といえるわけです。

 しかし、以前は進研ゼミと学習塾の部門が縦割りに寸断されていたため、学習塾への流入を促す施策は取られていませんでした。そこで、両者の顧客体験を連動させ、進研ゼミから学習塾への流入経路を設けたところ、目に見える形で成果が得られました。こうした成果の積み重ねが、経営層からの評価を呼び、DIPの活動が徐々に拡大していった側面があります。

藤井:なるほど。先ほどお話ししたVODサイトのケースとかなり似た構図ですね。そして、それをベネッセは実践できていると。たしかに、いきなり組織全体のカスタマージャーニーを描くのではなく、成果の得られる蓋然性の高い活動から着手して、それを積み重ねるなかで事業横断の取り組みを拡大させていくというのはスマートな手法だと思います。

 私は顧客体験が専門なので、どうしてもカスタマージャーニーや顧客の感情に目がいきがちです。しかし、DIPの活動は、ビジネスプロセスを効率化したり、ビジネスシナジーを生み出したりする方法論で、事業横断の活動を拡大させていった印象があります。

水上:そうだと思います。そして、それには「速やかに成果を得やすい」というメリットがあるのではないかと。事業全体の顧客体験を最適な形にデザインするのには、多大な時間と労力を要します。そうした取り組みを推進するには、経営層や社内からの協力が欠かせません。そのスタート地点に立つためには、短期間に成功体験を積み重ねるQuick Winのアプローチで社内の機運を醸成していくのが近道なのではないかと思います。

藤井:「顧客体験を連動させることの重要性はわかっていても、なかなか組織を動かせない」という企業は多いです。今のお話は、そうした企業の学びになる非常に貴重な知見かもしれませんね。

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この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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