政府の強力な支援策とスタートアップ・大企業それぞれへのメリット
ビジネスチャンスはある。しかし、こういったディープテックでのスタートアップは「実際に走り出すまでに時間がかかる」「リスクが大きい」などという印象を持つ人は多い。それに対して、日本政府は過去最大の1兆円規模の予算や税、制度を総動員した「スタートアップ育成5か年計画」の中で支援策を講じていると、池田氏は紹介した。
たとえば、「大学発新産業創出プログラム」は文科省が行う支援策だ。大学での研究成果にディープテックのシーズがたくさん眠っていることに着目し、まずは起業に向けたビジネスモデルの検証を行うのに利用できる。また、実用化に向けた研究開発、量産化実証の段階では国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以降NEDO)が行う1,000億円規模の「ディープテック・スタートアップ支援事業」を展開する。
個別分野に対する支援策も豊富だ。創薬の実用化開発を支援する3500億円規模の「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」をはじめ、宇宙戦略基金や、GX分野の実用化研究開発・量産化実証事業も用意されている。社会実装までに長期間を要する中で確かな市場創出につながるよう、政府は一気通貫での支援とエコシステムの醸成を後押しする。
本年度からNEDOの「ディープテック・スタートアップ支援事業」をEX-Fusionとして活用している松尾一輝氏は、
「特にディープテックはいつ実装できるかわからない中で挑戦し続けているスタートアップが多いと思います。そういった状況の中でダイリューション(新株発行により創業者らの既存株主の持ち株比率が低下すること)をし続けると、資金が尽きたり、次の資金調達ができなくなったりするというリスクがあります。スタートアップの立場からすると、ダイリューションがない資金調達は非常にありがたいですね」
と語る。
この支援策は、実は事業会社にも恩恵がある。スタートアップと協業する大企業も、スタートアップとともに政府の支援策にエントリーできるのだ。ティープテックの場合は特に、黒字化までの期間が読めず、新規事業に投資しにくいという声を聞く。しかし、これらの支援策を使うとスモールスタートできるのではないかと富士通の松尾氏も提案する。