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Biz/Zineセミナーレポート

次世代経営人材の育成に「修羅場」は必要か──「事業家思考」と「投資家思考」を両立する人材の養成とは?

日本特殊陶業株式会社 鈴木義孝氏、早稲田大学大学院 佐藤克宏氏、一般社団法人日本CFO協会 日置圭介氏

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 2025年1月21日に開催されたBiz/Zine Day 2025 Winter「経営戦略としての人的資本経営」。同イベントから、日本特殊陶業株式会社 上席執行役員 経営財務監理室担当 兼 FP&Aカンパニープレジデントの鈴木義孝氏、早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授の佐藤克宏氏が登壇したセッションの様子をレポートする。佐藤氏は著書『戦略としての企業価値』(ダイヤモンド社)などを通じて、経営人材には「事業家思考と投資家思考の両立が必要」だと訴える。その主張に、今まさに組織の大変革に挑んでいる日本特殊陶業の鈴木氏が応答する形で議論が展開した。モデレータは一般社団法人日本CHRO協会/一般社団法人日本CFO協会のシニア・エグゼクティブである日置圭介氏が務めた。

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なぜ経営者は「因果関係」で経営を語れないのか

「私がお伝えしたいのは“企業経営を原因と結果で捉えるべきだ”ということです。ここでいう原因とは戦略、結果とは企業価値、すなわちファイナンスを指します。企業経営では、戦略に基づいて組織を動かして事業を営むことで、キャッシュが生まれ、企業価値が創造されます。まさに、戦略こそが企業経営の原因であり、キャッシュや企業価値といったファイナンスの数値が結果です。これからの時代の経営は、この原因と結果を一体として捉えて議論できなければいけないというのが、私の主張です」(佐藤氏)

 セッション冒頭、早稲田大学大学院 経営管理研究科で教授を務める佐藤克宏氏は日本企業の経営課題について問題提起した。佐藤氏は日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)をキャリアの皮切りに、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、現在は早稲田大学大学院ほか複数の大学で教鞭を執っている。日本開発銀行でのファイナンスの経験、マッキンゼー・アンド・カンパニーでの戦略コンサルタントとしての経験を通じて、企業経営における戦略とファイナンスの両立の重要性を痛感したのだという。

「戦略とファイナンスを一体的に捉えて語るのは、欧米の経営者にとっては普通のことです。一方で、日本企業では経営企画部門、事業部門、経理・財務部門が縦割りになってしまっているなど、両者を一気通貫で語る習慣がありません」(佐藤氏)

 こうした状況を踏まえて、佐藤氏は自著の『戦略としての企業価値』で、「経営者の投資家思考と事業家思考の両立」を提言した。事業家思考とは、MVVやパーパスを主体的に定め、それに基づいて全社戦略を策定し、情熱的かつ徹底的に個別の事業戦略や機能戦略を遂行するスキルを指す。一方で、投資家思考とは、戦略実行の先に生み出されたキャッシュや企業価値を、ROICやWACCをはじめとしたファイナンスの考え方に基づいて分析・説明できる能力のことだ。

経営者の投資家思考と事業家思考の両立
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 この佐藤氏の提言を受け、日本特殊陶業の鈴木義孝氏が応答した。鈴木氏は双日や野村総合研究所を経て日本特殊陶業に入社し、現在は経営企画の経営管理機能と経理財務の機能を併せ持つ経営財務監理室の担当役員を務めている。佐藤氏と同様、戦略とファイナンスの両面での実務経験を持つ。

「私自身は、先ほど佐藤先生が指摘されたような、投資家的な視点と事業家的な視点の両面から事業を分析し、どの事業に投資すべきか、またはどの事業からダイベスト(投資撤退)すべきかを日々検討する役割です」(鈴木氏)

 現在、鈴木氏が所属する日本特殊陶業には、同社の史上稀に見る変革期が訪れている。日本特殊陶業の主力製品は、自動車部品のスパークプラグや酸素センサだ。自動車の内燃機関に搭載される部品であり、両製品ともに世界シェアNo.1を得ている(2023年3月末時点の同社推計)。優れた製品力や技術力は業績を後押しし、2024年3月末時点のグループ全体の売上高は6,144億円。営業利益率17.5%、自己資本利益率(ROE)13.8%、投下資本利益率(ROIC)9.5%と、いずれも高水準を保っている。

 しかし、近年の自動車業界のEVシフトを受け、内燃機関向けの部品は需要の縮小が確実に見込まれる。こうした中で、同社は、2030年3月期までに内燃領域と非内燃領域の売上高ポートフォリオを、現状の8:2から6:4にシフトする目標を掲げた。

日本特殊陶業 中期経営計画
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 そうした現状を踏まえ、鈴木氏は佐藤氏の提言に「非常に共感する言葉をいただきました」と返答した。

「私は社内でしばしば『戦略と財務はコインの裏表だ』と話しています。つまり、両者は切っても切り離せないわけです。戦略とは、MVVやパーパスを実現するためにありますが、その実現には利益を上げなくてはいけません。そのため、私は『財務なき戦略は戦略たり得ず、戦略なき財務も財務たり得ない』をモットーにしています。我々がそれを実現できているとは申し上げておりません。ただ、特に当社のように、ポートフォリオの転換が迫られる企業にとっては、戦略とファイナンスを両立した思考は欠かせないと思っています」(鈴木氏)

鈴木義孝
日本特殊陶業株式会社 上席執行役員 経営財務監理室担当 FP&Aカンパニー プレジデント 鈴木義孝氏

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全社戦略を事業戦略の「ホチキス止め」にせず、「夢物語」にもしないために

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この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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