■前編記事:FP&A導入の最大の目的とは何か──導入を阻む「二つの壁」、本社経営企画が果たすべき「真の役割」とは
「日本版FP&A」が持つ3つの特徴
Biz/Zine編集部・栗原茂(以下、栗原):池側さんは米国企業のFP&Aをそのままコピーするのではなく、日本企業に合った「日本版FP&A」を提唱されています。その特徴について、ご著書の『実践 日本版FP&A』(中央経済社)の内容も踏まえてお聞かせいただけますか。
池側千絵氏(以下、池側):米国と日本では、経営文化や組織構造、人材のあり方が大きく異なります。そのため、日本企業がFP&Aを導入する際は、米国型の「コピー」ではなく、日本企業の実情に合わせた「日本版FP&A」として導入する事例があり、そこには大きく3つの特徴があると考えています。
栗原:一つ目の特徴は何でしょうか。
池側:第一に「FP&Aとセットで自社の課題を解決する」ことです。
米国企業は一般的にコーポレート(本社)機能が強く、トップダウンで事業計画を実行する力があります。一方、日本企業は伝統的に事業部が強く、事業ごとの自律性を重んじる傾向にあります。
そのため、単にFP&A機能を導入するだけでなく、それを機に「コーポレートと事業部の関係性見直し」や「事業計画(予算)策定プロセス改革」といった、自社が抱える経営管理上の根本課題の解決も同時に目指す必要があります。売上・利益目標だけでなく、全社で資本コスト(企業の資金調達に必要な期待利回り) を意識した経営への転換が重要です。
栗原:二つ目の特徴は?
池側:第二に「現状の組織のままでFP&Aを始める」ことです。 米国では、FP&A機能はCFO(最高財務責任者)組織内に専門部署として設置されるのが一般的です。しかし、日本では関連機能が、本社経営企画、本社経理、事業部内の企画管理部門などに分散しているケースがほとんどです。
もちろん、理想は組織変更を行って機能を統合することですが、それが難しく、時間がかかる場合でも、まずは既存の組織体制のまま、レポートライン(指揮命令系統)が異なる関係者が集まり、機能横断的な「FP&Aチーム」として活動を始める、という現実的なアプローチを取る企業が多いのが特徴です。
栗原:三つ目は「人材」ですね。
池側:はい、第三が「多様な人材がFP&Aになる」ことです。米国では、MBA(経営学修士)やCPA(公認会計士)といった学位や資格を持ち、大学などで会計・経営を専門的に学んだ人材がFP&Aを担うのが主流です。
一方、日本企業では、経営企画や経理だけでなく、営業、製造、研究開発など多様な背景を持つ人材が各部署で計数管理を行っており、その流れからFP&Aになるケースが多く見られます。彼らが「現場理解と経験」という強みを活かしつつ会計・ファイナンスの基礎を学ぶことで、日本独自のFP&A人材となっていくのが「日本版FP&A」推進の特徴と言えます。
日本CFO協会主任研究員・認定FP&Aアドバイザー。慶應義塾大学大学院経営管理研究科非常勤講師。東証プライム上場企業社外取締役。中小企業診断士。MBA, 博士(プロフェッショナル会計学)。著書『管理会計担当者の役割・知識・スキル』(中央経済社、2022年)、『実践日本版FP&A』(中央経済社、2025年)
