プライム上場企業のCFO設置率はわずか3割
畠山:皆さんこんにちは。本セッションのモデレーターを務める畠山です。本日は「経営と現場を動かすFP&A」というテーマの下、二人のゲストをお迎えしてディスカッションを行います。
早稲田大学政治経済学部を卒業後、総合商社の財務部・自動車部でM&A、海外子会社管理などの業務に従事。トリドールホールディングスにて海外買収子会社のPMI、子会社管理などを行った後、2021年4月にDIGGLEに参画。2023年4月にCCSO(Cheif Customer Success Officer)に就任。
畠山:最初の議題は「なぜ日本企業でFP&Aの導入が進んでいないのか」です。石橋さん、解説をお願いできますか?
石橋:皆さんは、日本に上場企業が何社あるかご存知ですか? 答えは約4,000社です。そのトップに位置する東証プライム市場には、約1,600社が上場しています。
上場日本企業、外資系日本法人数社でCFOを経験。2025年度、会計大学院(千葉商科大学大学院、LEC大学院、早稲田大学院)および経営大学院(中央大学大学院、慶應義塾大学大学院、相模女子大学大学院)において、FP&Aをテーマにした正規科目10科目を開講。日本CFO協会において、日本社会におけるFP&Aの啓蒙活動に取り組む。著書に『最先端の経営管理を実践するFP&Aハンドブック』(中央経済社)がある。
石橋:では、この1,600社のうちCFO(Chief Financial Officer)を設置している企業が何社あるでしょうか。答えは約500社、つまり3割です。日本の外の資本市場において、CFOなき上場企業はあり得ません。
CFOの役割は、企業価値の向上にあります。財務報告や財務統制は企業価値を守るために不可欠であり、先の500社に所属するCFOも取り組んでいるはずです。では、“経営管理”は誰がやっているのでしょうか? 日本の上場企業に経営管理の専門組織が存在しない理由を探ると、二つの壁が見えてきます。
企業価値は時価総額に非ず
石橋:一つ目が「経営企画部と経理財務部の壁」です。この壁は日本企業に独自のものです。多くの大企業は本社と事業部で組織が分かれています。さらに、本社の中でも経営企画部と経理財務部が存在し、それぞれの役割は異なります。実はこの経営企画という職能、グローバル企業に存在しません。CFO組織が経理、財務、経営管理、FP&Aの全てを担っています。日本の上場企業では経営企画部と経理財務部が分断しているため、経営管理プロセスがうまく回らないのです。
二つ目が「本社と事業部の壁」です。この壁は日本企業とグローバル企業に共通する壁ですが、日本企業のそれはずっと高いのです。ここ20年、多くの日本企業では社内カンパニー制や純粋持ち株会社制が進められました。これにより、本社と事業部の間に壁が生まれてしまったのです。
企業価値とは、事業価値の総和です。事業価値とは、事業部が将来に生み出すキャッシュフローの現在価値です。多くの方が企業価値を「株主価値」や「時価総額」と読み違えています。上場企業である以上、時価総額の重要性は言うまでもありません。しかし最優先事項は、事業部が事業戦略を実行するために必要な経営管理プロセスを設計・運営することなのです。
畠山:石橋さんが指摘された二つの壁を、萱原さんはこれまでのキャリアで感じたことがありますか?
萱原:1社目のリクルートは企業規模が大きかったこともあり、部門をまたいだ相互理解・コラボレーションの難しさを感じたこともありました。個人としては営業からキャリアをスタートし、事業FP&Aを経て本社で経営企画や財務に従事するという、事業部とコーポレート両方の経験をしたことで、それぞれの頭の使い方を体得できたのが貴重でした。
