なぜ今、内側からブランドを創るのか。「外側」から作るブランドが機能しない3つの理由
本セッションのメインで解説された「インサイドアウト・ブランディング」は、企業の「内側」にある理念や哲学(=スタンス)を起点に、組織や行動、表現まで一貫して落とし込むブランディングアプローチだ。松隈氏はまず、このアプローチが不可欠となった時代背景を3つの大きな変化から解説した。
1.情報・環境の変化:「透明性の時代」の到来
第一に、内部情報も可視化されやすくなった「透明性の時代」の到来だ。松隈氏は、隠蔽(いんぺい)が困難な今、信頼を得るには「企業自ら透明性を担保し、実態を磨き上げることが重要」と指摘する。
2.生活者の価値観の変化:「実態への関心」
第二に、生活者が企業の「実態」に関心を寄せるようになった点だ。広告より従業員の行動や現場の取り組みが評価に直結する。「生活者は表面的なメッセージでなく、企業の価値観や言動の一貫性を重視しています。従業員がパーパスやビジョンに共感し体現することが重要」と松隈氏は分析。
3.働き手の意識の変化:「意義という報酬」
第三は働き手のインサイト。特に若い世代は「外的な報酬」以上に、企業の社会的意義や価値観への共感といった「内的な報酬」を求めている。松隈氏は「優秀な人材確保には、明確なビジョンや価値観を提示し、従業員が実感できる環境整備が必要。これがブランド作りの課題だ」と強調。
これら3つの変化に加え、松隈氏は「生成AIでフィクションが作れる時代だからこそ実態が重視される」と補足。見栄えだけのブランドは、実態が伴わなければ「うそ」として忌避される。
愛されるブランドを構成する「5つのS」
こうした時代に強いブランドを構築するキーワードが「オーセンティシティ(Authenticity)」だ。「うそがない」「本当に信じられる」ことが、現代のブランドにおける信頼の核となる。
ブランド構築において松隈氏が「一番重要」と位置付けるのが「スタンス(Stance)」だ。
「スタンスとは理念、哲学、何をやりたいかという意志を指します。事業を通し社会にどう向き合うか、そのスタンスが問われている時代です」(BIOTOPE・松隈氏)
だが、スタンスだけでは不十分だ。松隈氏は、スタンスが企業のあらゆる側面に一貫しているかを確認する視点として「5つのS」を提示した。
- Stance(スタンス):軸となる理念、哲学、パーパス、MVV
- Spec(スペック):価格や機能的価値へのスタンスの反映
- Status(ステータス):文化的背景や文脈
- Style(スタイル):VI、トーン&ボイスとスタンスの一致
- Story(ストーリー):上記4つを一つの物語として一貫して語れるか
松隈氏は、スタンスがコミュニケーション、社内制度、採用、事業・プロダクトそのものにつながっている状態が、目指す姿だと定義した。
「スタンスを従業員や経営陣を巻き込むことなど、あらゆる活動で発信し、実体にしていく。これをインサイドアウト・ブランディングと呼んでいます」(BIOTOPE・松隈氏)
2015年に慶應SFC卒業、博報堂入社。メディア、店頭SP、広告キャンペーンなどのコミュニケーション開発のプロデュースから、ブランド戦略やパーパスの策定支援、組織開発支援まで、幅広い領域でブランディングの支援を経験。 2024年8月より、BIOTOPEへ参画。
この理論の実践例が、次に紹介する菱田工務店だ。
