デンマークの歴史的背景が生んだ、社会課題解決に応える実践型ビジネススクール
カオスパイロット(KAOSPILOT)は、デンマーク第2の都市オーフスを拠点とするビジネスデザインスクールだ。日本人として初めて同校に留学した株式会社Laere(レア)の大本綾さんの説明によれば、「起業家精神、リーダーシップに力を入れ、ビジネス面では組織開発にプロジェクトマネジメント、デザイン面では、ブランド&サービスデザイン、経験デザインを実践重視の試行錯誤型で学べる学校」である。
メインのプログラムは3年制で1学年が36人ほど。多様なバックグラウンドを持つ学生がチームで実践的にプロジェクトに取り組みながら、理論を学び、内省するというラーニングループを巡っていきます。カオスパイロットの3年間で、クリエイティビティは生まれながらに授かった才能というより、トレーニングを繰り返すことによって得られるものだと感じました。
kaosはデンマーク語で「混沌」を意味する(英語のchaosに相当)。カオスパイロット(混沌の中でもパイロットのようにナビゲートする人材)を校名に掲げるようになった背景には、北欧ならではのユニークな歴史的経緯がある。同校が設立されたのは1991年だが、直前の80年代はまだ冷戦時代だ。東西陣営が睨み合う狭間に位置するデンマークでは、重ねて経済も停滞していた。「そんな状況が人々の心の持ちようにも影響し、ほんとうに核戦争が起こって世界中が核の冬に陥ってしまうのではないかと恐れられていた」と、カオスパイロットの校長を務めるクリスター・ヴィンダルリッツシリウスさんは当時を振り返る。
そうしたなか、失業中の若者を支援するフロントランナーという組織が作られました。この組織は、若者たちにあれをしろとかこれはするなとは言わず、ただオープンなスペースを提供しました。若者たちはそこでパーティをはじめ、その集まりがやがてコミュニティに発展し、リソースフルな(才能のある)人たちが集まってアートやカルチャー、ソーシャルなプロジェクトが手がけられるようになりました。
フロントランナーのメンバーたちは、西側諸国からの民間人の入国が困難だった1989年にソ連に入り、1週間ほどアートやソーシャルのプロジェクトやフェスティバルを展開した。ベルリンの壁が崩壊したのはその4ヶ月後だ。
この経験をきっかけに、社会に変化をもたらすプロジェクトを起こすためにはどんな教育が必要かを考えるようになりました。カオスパイロットの最初のカリキュラムは、その問いへのひとつの答えだったのです。このように、カオスパイロットは大学ではなくストリートから生まれた学校で、人々が方向性を見定め自身の人生に責任を持つことをエンパワーするというリアルなニーズに焦点を当てています。