「社会への影響」「価値連鎖」を可視化する
2つ目の事例は、各事業や製品・サービスが社会に与える影響を考慮し、各事業が創出した価値の大小や表出化するまでの時間軸を踏まえた取り組みです。近年、「社会インパクト」「社会価値」「インパクト会計」といったキーワードを目にする機会が増え、実際に企業の取り組み事例も多数発表されています。
企業が事業活動を行う際、また顧客へ製品・サービスを提供する前後のプロセスでは、企業・顧客間のやり取りだけではなく、社会全体(たとえば製品・サービス利用時の周辺地域社会、サービス利用者自身の周辺の人たち、製品・サービス製造時の自然環境など)にも何らかの影響を与えながら、その活動が成立しています。こうした影響にはポジティブなものもあれば、ネガティブなものも含まれます。そのため、企業はこれらの影響も鑑みながら、事業が本質的に生み出す価値の大きさや、中長期的に持続的成長を遂げられるかを判断する必要があります。
このプロセスでは、社会への影響を定性的に定義し、その影響度の数値化・金銭価値化まで実施し、事業価値を測る他の指標とともに、経営判断に活用するといったチャレンジも増えています。
さらに一部の企業では、社会価値の創出によって将来どれほど財務的価値を生み出せるか、また事業戦略の実現可能性をどう高めるか、という視点から社会価値の活用を検討しています。
こうした取り組みにより、図にある「Capability」から「Financial&Enterprise Value」までの価値連鎖をさらに高度化し、自社の経営管理における重要な要素として、経営管理サイクルに取り込む動きが加速しています。

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3つ目は、価値連鎖の可視化を社内浸透に活用した事例です。
経営戦略や事業戦略、KPIの自分事化に関する課題は、多くの日本企業が直面している問題です。経営企画部門がいかに戦略やKPIを練ったとしても、それを実現し、KPIを押し上げるのは現場部門であり、社員一人ひとりです。自社が目指す方向性や、自身の行動が企業の目指す姿にどのように貢献するのか、その過程で自身が何を得るのかを認識することは、企業と社員の関係性を深めるために非常に重要です。また、深刻な人材不足問題を抱える日本企業では、社員の意識向上と人材確保について確実に手を講じなければならない箇所でもあります。
先の図にある「Capability」から「Financial&Enterprise Value」までの価値連鎖は、経営企画部門の管理プロセスを洗練させ、投資家など外部ステークホルダーとの対話の高度化を可能にします。
さらに、これらの情報を社内で共有することで、自身や自部門に課せられたKPIが、顧客に対する価値提供の一部としてどのように機能し、それが企業全体の成長にいかに貢献しているのかが認識できるだけでなく、社会価値として社会全体に与える影響も理解できるため、事業が持つ本質的な社会的意義が可視化されます。社員一人ひとりの活動が社会の役に立っていることを企業が認めることは、社員や現場部門にとって非常に心強い指針となるでしょう。
このような取り組みによって、人材確保、コラボレーションの促進、不正抑制などのコーポレートガバナンスの強化を目指している企業事例が増えてきています。短期的な視点だけでなく、企業が中長期で持続的な成長を目指すためには、その成長を支える最も重要な経営基盤の強化に取り組んでいる事例と言えるでしょう。この基盤が強固であればあるほど、企業価値マネジメントサイクルはよりスピーディーに回し続けられます。
ここまで3回にわたり、経営企画部門の管理対象範囲が拡大し、かつ、短・中・長期という時間軸の違いや社会インパクトといった複雑な要素が絡み合いながら加わっている現状についてお伝えしてきました。そのなかで、経営管理の核となる「企業価値マネジメントサイクル」を効果的に回していくためには、一見複雑に見える各要素の関係性を少しずつ紐解きながら、管理可能な状態に可視化をし、判断と成果検証を積み重ねていくことが不可欠です。
上述の先進企業の取り組み事例のように、まずは部分的にでも社内変革を推進しながら、自社にとって最適なプロセスと管理の粒度を早期に設定することが重要です。これにより、変化の激しい経営環境のなかでも企業価値向上に向けた強固な経営基盤を築くことが可能となるでしょう。