「貿易手続デジタル化」が加速した“2つの要因”
真畑皓氏(以下、真畑):吉川さんは1997年(平成9年)に当時の通商産業省に入省して以降様々な業務を担当されたのち、現在は貿易振興課の課長をお務めです。貿易振興課ではどのような業務を行っているのでしょうか。
吉川尚文氏(以下、吉川):貿易振興課の業務は、大きく分けて3つあります。1つ目は、貿易手続のデジタル化をはじめ貿易DXを推進すること。2つ目は、中堅・中小企業の輸出を振興すること。そして3つ目は、日本企業のインフラシステムの輸出を促進することです。
真畑:今回は、その1つ目の「貿易手続デジタル化」についてお伺いします。貿易手続デジタル化は、以前から貿易振興課のテーマとして存在していたのでしょうか。それとも、最近特に力を入れているテーマなのでしょうか。
吉川:問題意識としては、以前から存在していたと思います。しかし、具体的な取組が始まったのは、ここ1年半ほどのことです。
真畑:約1年半前から取組が始まったとのことですが、そのタイミングでのスタートにはどのような要因があるのでしょうか。
吉川:大きく2つの要因があると考えています。1つ目は、新型コロナウイルス感染症の流行による経済の停滞です。感染症の影響で世界的な物流の混乱が発生し、たとえばアメリカ西海岸では大量のコンテナ貨物が滞留する事態となりました。
このとき、各企業は貨物の所在地などの最新情報をリアルタイムで把握できず、貨物の到着遅延、在庫不足、航空機での臨時輸送対応、倉庫保管コストの増加など、様々な問題に直面しました。この経験から、サプライチェーンを強靭化するために、貿易手続デジタル化が重要だという認識が強まりました。
2つ目は、コスト削減の必要性の高まりです。コストには、金銭的な面と、人手や時間といったリソースの面の2つがあり、企業はそれぞれにコスト削減に向けて取組を進めています。
このような中で、貿易業務を支援するプラットフォーム事業者が登場したことも、貿易手続デジタル化を推進する大きな要因です。自社でシステムを構築している企業もありますが、専門の事業者が提供するプラットフォームを利用することで、多くの企業が効率的に業務を進められるようになると考えています。
さらに、2024年問題に代表されるように、日本はこれから深刻な人手不足に直面します。貿易手続デジタル化は、人手不足や業務の属人化の解消、業務の可視化といった点でも非常に重要です。

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真畑:私もコロナ禍当時、国際物流の現場でお客様の対応をしており、貨物が届かない、いつ荷物を積んで出航するかわからないといった状況に多くのお客様が苦慮されているのを目の当たりにしました。コロナ禍を経て、多くの企業で国際物流部門の重要性が高まったという話をよく耳にします。社会全体として、貿易DXに取り組むべき土壌が整ってきたと言えるかもしれません。貿易DXを進めるうえで、政府としてどのような目標を掲げているのでしょうか。
吉川:経済産業省では、「貿易プラットフォームの利活用推進に向けた検討会」を開催し、中間取りまとめを行いました。その中で、令和10年度までに貿易プラットフォームを通じてデジタル化される貿易取引の割合を10%にするという目標を掲げています。
現状では、貿易プラットフォームの利用率は1%にも満たない水準であり、10%という目標はとても野心的なものです。しかし、貿易プラットフォームは、ある程度普及するとネットワーク効果が働き、利用が急速に拡大する可能性があります。関係者の皆様に問題意識を持っていただき、集中的に取り組むことで、目標達成を目指したいと考えています。
