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AIエージェントによる「すり合わせ」が日本企業の強みになる?──トヨタも実践する「生成DX戦略」とは

【前編】ゲスト:株式会社d-strategy,inc 代表取締役CEO 小宮昌人氏

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「生成DX戦略」における生成AIの活用モデル

栗原:本書では「生成DX戦略」における生成AIの活用モデルを3つのフェーズに分類しています。この点について、ご説明いただけますか。

小宮:先ほどご紹介いただいたとおり、「生成DX戦略」は生成AIを活用したDX戦略なのですが、その活用は大まかに3つの段階に分けられます。

生成AI活用段階と「生成DXと戦略」
小宮昌人氏の資料より/クリックすると拡大します

 まず、生成AI活用1.0は「生成AI単独活用での効率化」です。これは既存業務のなかで都度に生成AIにプロンプトを入力して、業務を効率化する活用方法を指します。たとえば、小売企業などではECサイトの商品説明文を生成AIで自動作成する取り組みを行なっています。このように文章の作成や要約、ブレスト、調査、翻訳、プログラミングなどの業務を効率化するのが1段階目です。3つの段階のなかでは第一歩の活用法ですが、これだけでも十分に既存業務の工数を削減できます。そのため、生成AI活用1.0については、この記事を読んでいただいている方にも「すぐに実行しましょう」とお伝えしたいです。

 しかし、その一方で生成AI活用1.0は、誰が使っても同様の回答が出力される「一般論」の世界だと言えます。他社と差別化しながら、さらに付加価値を生むためには、自社のノウハウやデータと生成AIを掛け合わせて、自社独自の価値や強みを発揮しなければいけません。

 それが2段階目の生成AI活用2.0、「自社・産業データと生成AIを組み合わせたオペレーション変革」です。ここでは「RAG」「ファインチューニング」といったアプローチがポイントになります。RAGはデータやドキュメントを追加して、生成AIのアウトプットの精度などを向上させるアプローチです。

 一方、ファインチューニングは生成AIに事前学習させたデータモデルに対して、新たなデータや知識を追加学習させるアプローチを指します。ここでのデータやドキュメントとは、具体的には業務マニュアルや取扱説明書、報告書、自社オペレーション・現場データ(IoT、業務システムなど)です。これにより、生成AIによる効率化の範囲を個別の業務から業務プロセスの全体に拡張できます。

 たとえば、製造業でのユースケースとしては、設備・機器メンテナンスの自動化があります。工作機械の取扱説明書や過去トラ(トラブル報告書)、設備の利用状況を生成AIに参照させることで、異音や振動の検知を自動化できます。実際に、FAメーカーのオムロンは、業務マニュアルや過去の事例などから工作機械の不具合や故障を抽出する生成AIソリューションの展開を図っています。また、自動車部品メーカーの旭鉄工は、数百の製造ラインを自動的に巡回・分析して、問題点を発見するとアラートを発する「AI製造部長」を構築しました。

小宮昌人
株式会社d-strategy,inc 代表取締役CEO 小宮昌人氏

生成AI活用に成功している企業の共通点

栗原:生成AIを単独かつ個別の場面で利用するのが1.0であるのに対して、オペレーションのなかに生成AIを組み込んで業務プロセス全体の効率化を図るのが2.0なのですね。

小宮:そうです。さらに補足すれば、生成AI活用2.0はデバイスとの融合により、従来は自動化が困難とされていた業務や作業の自動化も可能にします。その一例がロボットとの融合です。生成AIは制御コードを自動生成できるため、ロボットを個別の状況に応じて柔軟に動作させることができます。事実、Amazonは倉庫で作業するピッキングロボットや自律搬送ロボットに、NVIDIAの「合成データ活用のプラットフォーム」を用いて様々な動作環境を学習させ、ピッキングなどの業務の自動化を図っています。

 製造業では段取り替えや、循環経済対応のための回収後の分解プロセスなどフレキシブルな動作が求められる領域があります。それらに対応するロボットの柔軟性の強化や、介護サービスなど今までロボットが導入できていなかった領域への拡がりが想定されます。さらにロボットの学習においても、事前学習データを合成して効率的に学習するアプローチも採られています。

栗原:ここまでのお話では、人間が担っていた業務のほぼ全てを生成AIが代替可能かのように思えます。

小宮:確かに、生成AIが活用できる領域は近年急速に拡大していますが、全ての業務を代替するという状況ではありません。生成AIの活用に成功している企業は「生成AIで代替できるのは6~7割程度」と割り切っているのが特徴でしょう。

生成AIと人間の業務分担
小宮昌人氏の資料より/クリックすると拡大します

 たとえば、キリンはビールのレシピ開発において原材料の配合や工程条件から試作結果を予測できる「醸造匠AI」を実用化していますが、最終的な細かい調整については熟練者の職人が担っています。このように生成AIのアウトプットを土台にしつつ、その後に人間が製品や業務の品質により磨きをかけていくという工程は、今後も存続するのではないでしょうか。逆に言えば、生成AI活用2.0においては、生成AIによるたたき台アウトプットを前提としてオペレーションや組織を組み替えていくことが付加価値になるのだと思います。

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「個別最適」や「サイロ化」が強みになる時代とは

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この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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