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AIエージェントによる「すり合わせ」が日本企業の強みになる?──トヨタも実践する「生成DX戦略」とは

【前編】ゲスト:株式会社d-strategy,inc 代表取締役CEO 小宮昌人氏

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「個別最適」や「サイロ化」が強みになる時代とは

栗原:最後が生成AI活用3.0です。

小宮:生成AI活用3.0は、端的に言えば「生成AI活用によるビジネスモデル強化、顧客・社会価値創出」です。つまり、社内で磨き上げた生成AIの活用方法をソリューションとして外販したり、顧客価値や社会価値の創出につなげたりするフェーズを指します。

 ただし、ここで注意すべきポイントがあります。ビジネスモデルとして「生成AIそのものを回収源にしないこと」です。この段階における生成AIは、まさに自社のノウハウやデータの結晶に他なりません。それを生成AIの利用課金やSaaSとして展開してしまうと、単価を低くせざるを得ず、大企業から見た際の新規事業としての採算は見込めないでしょう。

 そのため、自社ノウハウやデータを実装した生成AIを裏側で活用して、今まで工数がかかっていたコンサルティングサービスやSIを効率化し案件数を増やしたり、自社の業務知見を活かして顧客を支援するBPOのようなオペレーションサービスの付加価値を高めたりするツールとして、裏側で生成AIを活用するのが望ましいです。生成AI時代においても、特にBtoBのソリューションビジネスでは、生成AIそのものではなく、オペレーションサービスやハードウェアなどを売り物としその裏側で生成AIを活用して効率化することが有効と言えます。

 これは別の観点で言えば、「生成AI時代には現場やオペレーションの重要性がより高まる」ということでもあります。生成AIや様々なデジタルツールが生まれるほど、それぞれに対して個別ツールも生まれますが、それらをユーザーとしていかに組み合わせて使いこなすのか、オペレーションを行うのかが複雑になり、ノウハウ、競争の源泉となります。

 そのため生成AIのみ、システムやSaaS、ハードウェアのみを単体で提供するのではなく、常駐型で企業に人員を送りユーザー視点で使いこなすノウハウをオペレーション支援として提供することで、単価を上げて売っていくアプローチが採られつつあります。デジタル化が進むなかで、逆説的に人が売り物やインターフェースになる、相対的に「人」の価値が高まっていく時代とも言えるのではないでしょうか。

栗原:先ほども「生成AI時代は個別最適に強い日本企業にとって有利」と述べられていましたが、高度なオペレーションや現場のノウハウは日本企業の強みですね。

小宮:おっしゃるとおりです。私は生成AI時代とは「レバレッジDX時代」とも言い換えられると思っています。従来のDXはデジタルの制約に合わせて現場やオペレーションを変更しなければいけませんでしたが、今後は現場やオペレーションの強みをデータとしてフィードバックしていくことで、生成AIの価値を増幅できるようになります。「現場の知」がレバレッジを効かせて価値を増幅していく時代は、日本企業にとってチャンスに違いありません。

レバレッジDX
再掲/クリックすると拡大します

AIエージェントによる「すり合わせ」が日本企業の強みになる

栗原:個別最適がAI時代の強みになるというのは興味深い見解ですが、にわかに腹落ちしがたいと感じられる方もいらっしゃると思います。何か紹介可能な取り組みはございますか。

小宮:その最も象徴的な例が、トヨタが構築したマルチAIエージェント「O-beya(オーベヤ)」です。トヨタは製品設計のプロセスを細かく分割し、それぞれの専門家の知見をO-beyaに学習させることで、車両法規や電池、モーター、システム制御などの各領域に特化したAIエージェントを構築しています。さらに、それらの出力結果を調整して統合するAIエージェントを運用することで、各現場の専門的な強みを削がずに製品設計の最適化を可能にしました。これは、いわばAIエージェントによる「すり合わせ」です。まさに日本型のオペレーションが再度強みを持つのが、生成AI時代なのだと思います。

トヨタが構築したマルチAIエージェント「O-beya(オーベヤ)」
小宮昌人氏の資料より/クリックすると拡大します

栗原:従来は「個別最適」や「サイロ化」と言えばネガティブなフレーズでした。

小宮:それが強みになり得る時代が到来しているわけです。そもそも、なぜ個別最適やサイロ化が批判されていたのかと言えば「効率化」の阻害要因だったからです。しかし、今後は効率化と個別最適化が両立可能になります。その間をつなげるのが生成AIというわけですね。

 こうしたことからも、今後の日本企業には発想の転換が求められると思っています。「いかに効率性を上げて標準化するか」から「いかに自社の強みを見つけて、強み・専門性が最大化するAIエージェント配置を検討し、自社ノウハウ・データを生成AIにフィードバックするか」へ。自社の強みを捨てることなく、生成AIをうまく活用していくのが、これからの時代の勝ち筋なのだと思います。

栗原:同感です。後編では、「現場の知」を重んじる個別最適型のオペレーションを強みとして活かすため、組織や個人はどのように生成AIを活用すればよいのか。次の時代を勝ち抜くための生成AI活用のロードマップをお聞きしますね。

Biz/Zineコンテンツ・プロデューサー 栗原茂

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島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

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