SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

両利きの経営2025

イノベーターの先駆者・ヤマハ北瀬氏に聞く、大企業に「カーブアウト」と「評価制度改革」が必要な理由とは

ゲスト:ヤマハ株式会社 執行役員 新規事業開発部 部長 北瀬聖光(きたせ まさみつ)氏

  • Facebook
  • X
  • Pocket

新規事業での事業評価と人事評価をどうすればいいか

栗原:本書では、大企業におけるイノベーションの鍵として「評価制度改革」が挙げられています。新規事業における評価制度の重要性についてもご説明いただけますか。

北瀬:大企業のイノベーションが失敗する理由として「既存事業の評価制度を新規事業に当てはめてしまうこと」があります。すでにビジネスが確立された既存事業と、これから価値や顧客を生み出そうという新規事業では、そもそもの性質が異なります。それにも関わらず、新規事業に既存事業の評価制度を適用してしまい、メンバーのモチベーションを低下させたり、事業をうまく検証できなくなったりするケースが散見されます。

 そのため本書にあるとおり、新規事業の評価を、立ち上げ段階の「構想フェーズ」、事業の価値を検証する「検証フェーズ」、事業化後の「事業フェーズ」の3段階に分けていました。構想フェーズでは事業計画に対する投資の可否を、検証フェーズでは事業によって期待できる価値創出を、事業フェーズでは既存事業と同様に売上や利益を、それぞれ評価基準とすることで各段階に適した評価を目指しました。

新規事業部門の人事評価での“意外な項目”とは

北瀬:また、BIRD INITIATIVE社では、人事評価についても大企業では明文化しづらい基準を設けていました。特徴的なのは「周囲への影響」を重視している点です。たとえば、メンバーの行動を評価する指標においては、行動指針に則って自ら実行するだけでなく、周囲に実行するよう働きかけることもプラス評価としました。その一方で、モチベーション低下など周囲に著しい悪影響を与える行動については、仮に当人が行動指針を実行できていたとしてもマイナス評価になります。

 なぜ、こうした設計にしたのかと言えば、既存事業と新規事業では規模感が異なるからです。たとえば、1万人が従事している既存事業に2、3人ほど協調性に乏しい人材がいたとしても、それほど影響はありません。しかし、10人の新規事業チームに2人もチーム力を損なう人材がいると、全体のパフォーマンスは一気に低下します。少人数の新規事業チームやスタートアップでは、自らの役割を全うするだけでなく、周囲と協調しかつ刺激し合いながら、それぞれのパフォーマンスを最大化しなければいけません。そのためにも、周囲への影響は、重要な評価指標にする必要があります。

栗原:「周囲への影響」は定性的な評価ですが、適切に評価するためのコツやポイントはありますか。

北瀬:普段の立ち振る舞いにも注目すべきですが、最近では業務の中でオンラインコミュニケーションツールの利用が主流になっていますから、そのやり取りを参考にするのはよいでしょう。オンラインコミュニケーションは、可視化・記録されていますから、より公平な評価をしやすくなると思います。

 行動に対する評価は、しばしば上辺を取り繕うのがうまい人に有利に働きがちです。その点、可視化されたオンラインコミュニケーションも含めて評価すれば、事業に本質的に貢献しているタレントを正当に評価できます。特に、今後は生成AIによるテキスト分析が一般的になると思うので、より納得度の高い行動評価が可能になるのではないでしょうか。

自社の強みと他社の強みを越境して融合する

栗原:最後に、日本のイノベーションの今後について、見通しや見解をお聞かせいただけますか。

北瀬:コーポレートガバナンス・コードの改訂など、日本でイノベーションを起こそうという社会的な機運は制度面などからも高まっていると思います。また、大企業とスタートアップの関係も緊密になりました。一昔前のように、スタートアップを「下請け」と捉える大企業はかなり減ったように思います。その意味では、イノベーションを創出しやすい環境は整いつつあるのではないでしょうか。

 ただ、一方で、市場環境はより優勝劣敗な傾向を強めていくのではと思っています。数兆円規模の買収のような資金や組織力に物を言わせたパワーゲームの世界ですね。クラウドやAIの普及により、資金力のない企業でもイノベーションを起こせるようになったのが、これまでの10年でした。それに対して、この先の10年は「数の力」がより強調されるように思います。

 そうした市場環境のなかで勝ち抜くためには、やはり独自性が必要です。「自社らしさ」を明確にするマーケティングやセグメント戦略が今まで以上に問われます。また、「越境」も重要なポイントになるでしょう。たとえば、ヤマハで言えば、楽器や音響といった専門分野を起点に、他の領域や産業にどのような価値を提供できるか。「自社らしさ」を大切にしつつ、領域や産業を越境していくチャレンジがこれからは求められるでしょう。私自身も、ヤマハの「音・音楽」に関する世界トップラスのアセットを活用して、社会に新たな価値を提供する事業を創り上げていきたいと思っています。

栗原:本日は貴重なお話をありがとうございました。

画像を説明するテキストなくても可

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
両利きの経営2025連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

  • Facebook
  • X
  • Pocket

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング