生成AI活用の4段階モデル、京セラと旭化成の相違点と戦略的意図
セッションは、各社の知財業務における生成AI活用の状況説明からスタートした。

口火を切ったのは京セラの竹口氏。京セラでは、知財業務における「拒絶理由通知(Office Action、以下OA)[1]」対応、「維持・放棄・活用」のための分析、クリアランス調査(自社製品やサービスが他社の特許権を侵害していないかを確認するための調査)や係争・訴訟のフェーズで生成AIを活用している。その理由として竹口氏は、生成AIと特許評価との親和性の高さを挙げた。

OA対応や特許の維持・放棄判断、権利活用においては、自社特許の評価が欠かせない。また、権利侵害に関する係争・訴訟などの際には、他社特許の評価が必要不可欠だ。このように特許評価は様々な知財業務の基礎となっている一方で、この特許評価との親和性が生成AIは高いことから、重点的に活用を進めている。
しかし、生成AIにはハルシネーション(AIが事実に基づかない情報を生成してしまう現象)のリスクが付きまとう。そのため、京セラでは生成AIの活用レベルを4段階に整理し、リスクに応じて使い分ける方針を取っている。活用レベルは「AIが対応」「AIが主体で人が補助」「人が主体でAIは補助」「人が対応」の4段階。特許明細書の翻訳や先行技術調査を「AIが主体で人が補助」に、クリアランス調査や知財の活用などを「人が主体でAIは補助」に、それぞれ割り当てている。

一方、旭化成の風間氏は、知財に関するAI活用のポリシーを「人間が許容できるAIの活用」と紹介する。

「当社は、ハルシネーションなどのリスクを踏まえて、生成AIを活用できる業務と活用できない業務を明確に分けている点が特徴です。たとえば、クリアランス調査については1次スクリーニングのみ生成AIを活用しています。生成AIによって、抵触がないと評価した技術を知財部員が2次スクリーニングして、そこから最終判断を下すといった体制です」(風間氏)
こうした体制を、風間氏は京セラの4段階の活用レベルに則して「人が主体でAIは補助」だと説明する。慎重な姿勢ながらも、確実に生成AIの恩恵を得ようとする狙いが伺える。

[1]拒絶理由通知(OA:Office Action):特許庁が特許出願に対して審査を行い、特許要件を満たしていないと判断した際の出願者に対する拒絶理由に関する通知のこと