なぜ島津製作所は生成AIを積極活用できているのか
登壇した3社のなかで最も積極的に生成AIを活用しているのが島津製作所だ。同社の阿久津氏は、知財部員のロジックを生成AIに学習させて、ハルシネーションを可能な限り抑制している点が特徴だと語った。

たとえば、特許分類の業務は、京セラの生成AI活用レベルで言うところの「AIが対応」に位置し、ほぼ完全に自動化されている。他にも、クリアランス調査の1次スクリーニングもほぼ生成AIが代替している。具体的には、ChatGPTが権利抵触の有無を評価し、その結果をExcelに出力しリスト化しているほか、プロンプト開発により評価の根拠についても表示する仕組みを構築した。

プロンプトの開発手法としては、対象製品を請求項(特許出願で特許を受けたい発明を特定するための特許請求の範囲に記載される各項目のこと)の形式で記述し、それを生成AIプロンプトに変換することで、知財部員の検討ロジックを生成AIに落とし込んだ。この取り組みにより、島津製作所では年間100,000件にも及ぶ特許スクリーニングを大幅に効率化している。

この島津製作所の活用事例を受けて、旭化成の風間氏が興味深い質問を投げかけた。経験の長い知財部員であればあるほど、生成AIの活用やハルシネーションのリスクに慎重になるはずだ。その壁をどのように乗り越えたのか。
これに対して、島津製作所の阿久津氏は実践的な回答を示した。
「当初は反発の声もありました。しかし、生成AIのテストデータと過去の知財部員によるスクリーニングの結果を突き合わせたところ、大きな違いは見られませんでした。『人間にもハルシネーションはある』と説明すると、多くの人に納得してもらうことができました」(阿久津氏)