トレンド5:「大気からの回収」が巨大市場へ。「カーボンキャプチャ・カーボンの利用」
カーボンニュートラル達成のためには、排出を減らすだけでなく、既に大気中にある、あるいはどうしても排出されてしまうCO2を回収・固定化する技術が不可欠となる。ウッザマン氏は、カーボンクレジット市場の拡大とともに、「カーボンキャプチャ」が巨大なビジネスチャンスになりつつあると紹介した。
この分野で先行するのが、スイスのClimeworksだ。同社は「DAC(Direct Air Capture:直接空気回収)」技術を実用化しており、巨大なファンを用いて大気中からCO2を直接吸着・回収し、地下深くに貯蔵するプラントを稼働させている。
一方、回収したCO2の「利用」に焦点を当てるのが、米国サンフランシスコのBlue Planetである。同社は、発電所やセメント工場から排出される排気ガスに含まれるCO2を回収し、それを原料として合成骨材(人工の石灰石)を製造する。この骨材はコンクリートの中にCO2を半永久的に閉じ込められるため、サンフランシスコ国際空港の改修工事など、実際のインフラ整備にも採用されている。企業がカーボンオフセットのために投資する対象として、こうした技術への資金流入は今後さらに加速するとウッザマン氏は話す。
トレンド6:エネルギー密度の向上と充電時間の短縮。「次世代バッテリー材料」
エネルギー貯蔵の分野、特にバッテリー技術では、「シリコン負極」と「超急速充電」がシリコンバレーの合い言葉となっているという。EVの普及やモバイルデバイスの進化において、バッテリー性能は最大のボトルネックであり、その解決には素材レベルのブレイクスルーが不可欠だ。
テスラ出身のエンジニアらが創業したSila Nanotechnologiesは、リチウムイオン電池の負極材として長年使われてきた黒鉛(グラファイト)を、よりエネルギー容量の大きいシリコン素材に置き換える技術を開発した。シリコンは理論上、グラファイトの約10倍のエネルギーを蓄えられるが、充電時の膨張収縮が激しく実用化が困難とされてきた。同社はこの課題をナノテクノロジーで解決し、高エネルギー密度と耐久性を両立させることに成功。メルセデス・ベンツやパナソニックとの提携を通じて、EVの航続距離延伸とバッテリーの小型化を実現しようとしている。
また、イスラエルのStoreDotは、EV普及の最大の障壁である「充電時間」の短縮に挑んでいる。同社の技術は「100 in 5」、つまり5分間の充電で100マイル(約160km)の走行を可能にするもので、ガソリン車の給油と同等の利便性を実現することを目指している。ウッザマン氏は「一生に一度充電すれば済むパソコンが欲しい」と冗談を言いつつ、バッテリー性能の飛躍的向上が、社会インフラの在り方を根本から変える可能性を秘めていると語った。

共創こそが不確実な未来への生存戦略
講演の最後、ウッザマン氏は「その他のトレンド」として、5種類以上の元素を等量配合することで極めて高い耐久性を生み出す「高エントロピー合金(ハイエントロピー合金)」などの最新研究にも触れ、マテリアル分野における技術進化が加速している状況を示した。
素材産業は、日本の製造業が長年にわたり世界的な優位性を保ってきた領域である。しかし、AIによる開発サイクルの超高速化や、脱炭素というゲームチェンジの波は、これまでの成功体験を過去のものにする力を持っている。ウッザマン氏は、こうした破壊的イノベーションを前にして、日本企業が自前主義から脱却し、グローバルなスタートアップエコシステムと戦略的に連携することの重要性を改めて説いた。
そして、「脱炭素や市場機会の拡大において、競争に負けてはいけません」と参加者に向けて語り、講演を締めくくった。
