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AI開発から脱炭素まで。シリコンバレーVCが注目するマテリアル領域の「6つのメガトレンド」

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トレンド2:石油・鉄鋼代替への挑戦。「最先端のバイオ素材・サステナブル素材」

 次に注目されるのが「最先端のバイオ素材・サステナブル素材」だ。ここでは、単に「自然に優しい」だけでなく、既存の鉱物・石油由来の素材を超える性能を持つ「エンジニアリング素材」が登場している点が新しい。化学合成からバイオエンジニアリングへの転換は、環境負荷低減と高機能化を両立させる手段として定着しつつある。

 米国メリーランド大学発のInventWoodは、木材の構造をナノレベルで制御することで、鉄鋼に匹敵する強度と軽量性を併せ持つ高性能エンジニアードウッド(木質複合材料)の「SUPERWOOD」を開発。この素材は、建設資材や自動車部品における鉄やコンクリートの代替として期待されており、都市そのものが炭素の貯蔵庫となる未来を描いている。天然素材である木材をハイテク素材へと昇華させる技術は、持続可能な都市開発において重要な役割を果たすとウッザマン氏は話す。

 また、米国ニュージャージー州のModern Meadowは、バイオファブリケーション(生物学的製造)技術を駆使し、植物由来タンパク質から高機能なレザー代替素材やテキスタイル、バイオポリマーを生み出している。環境に配慮しつつ高性能な素材を生み出す同社のアプローチは、環境意識の高いラグジュアリーブランドや自動車メーカーの内装材として採用が進んでいるという。

ペガサス・テック・ベンチャーズ CEO アニス・ウッザマン氏
ペガサス・テック・ベンチャーズ CEO アニス・ウッザマン氏

トレンド3:800年分の進化を圧縮する。「AIと自動化で素材開発を高速化」

 講演の中でウッザマン氏が「今後10年で最大のインパクトをもたらす」と語ったのが、素材科学におけるAI、特に「生成AI」の活用である。ゴールドマン・サックスの予測によれば、生成AIは今後10年で世界経済を7%押し上げるとされているが、その恩恵を最も受ける分野の一つが素材開発[1]だ。

 従来、新素材の開発は「仮説・合成・評価」というサイクルを人間が手作業で回す必要があり、一つの新素材が世に出るまでに10年以上の歳月がかかることも珍しくなかった。しかし、AIとロボティクスを組み合わせた「自律型ラボ(Self-driving Labs)」の登場により、このサイクルが劇的に加速している。

 ウッザマン氏は、この領域のトップランナーとしてGoogle DeepMindの事例を紹介した。同社のAIツール「GNoME(グノーム)」は、構造的に安定した新しい結晶構造を約220万種類も予測し、そのうち約38万種類を有望な候補として判定した。これは人類が過去の実験を通じて蓄積してきた知識と比較して、約800年分の科学的進歩に相当する量だとも言われている。また、Microsoft Researchも、2025年1月に素材設計支援プラットフォームを発表。「MatterGen」で新しい素材構造を生成、「MatterSim」でその素材の特性を高速・高精度にシミュレーションすることで、素材設計から評価までの開発サイクルを高速化できるようになる。

 この分野ではスタートアップも急成長している。OpenAIやDeepMind出身者が2025年5月に創業した米国サンフランシスコのPeriodic Labsは、生成AIと物理シミュレーションプラットフォームを統合することで、材料探索の全プロセスを自動化・高速化している。人間が寝ている間もAIが24時間態勢で仮説検証を繰り返し、バッテリー材料や触媒などの最適解を探索し続けるのだ。

 米国ニューヨークのRadical AIも同様に、原子レベルのシミュレーションと生成モデルを用いて数十億通りの候補物質をスクリーニングする技術を有しており、既に5500万ドルの資金を調達している。

 また、デンマークのPhaseTreeは、次世代マテリアル探索に特化した技術を開発。AI駆動型モデリングとシミュレーションを活用し、環境負荷を最小限に抑えつつ、高性能素材を速く設計できるプラットフォームを提供している。

トレンド4:重厚長大産業を革新する。「脱炭素化・クリーンな工業プロセス」

 製造業の中心とも言える「プロセス」の分野でも、大きな動きが起きている。ウッザマン氏は、鉄鋼や化学といった、いわゆる「Hard-to-Abate(排出削減が困難な)」産業における脱炭素技術の進展を紹介した。

 製鉄業においてウッザマン氏が取り上げたのは、米国MIT発のスタートアップBoston Metalだ。従来の製鉄法は石炭を用いて鉄鉱石を還元するため、大量のCO2排出が避けられなかった。しかし、同社の「溶融酸化物電解(MOE)」技術は、電気分解のみで鉄鉱石から直接液体鉄を抽出することで、CO2排出を原理的にゼロにするという。TIME誌のベストイノベーションにも選出されたこの技術は、世界のCO2排出量の約7〜9%を占めるとされる製鉄プロセスの脱炭素化に向けた切り札として期待されている。

 また、タイヤやゴム製品に不可欠な「カーボンブラック」の製造でも、米国ネブラスカ州のMonolithが革新を起こしている。同社は天然ガスを熱分解(メタンパイロリシス)することで、CO2を出さずにカーボンブラックと水素を同時に製造するプロセスを確立した。これにより、タイヤ産業の脱炭素化とクリーン水素の供給を両立させるビジネスモデルを構築している。


[1]Goldman Sachs「The Potentially Large Effects of Artificial Intelligence on Economic Growth (Briggs/Kodnani)

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トレンド5:「大気からの回収」が巨大市場へ。「カーボンキャプチャ・カーボンの利用」

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この記事の著者

梶川 元貴(Biz/Zine編集部)(カジカワ ゲンキ)

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