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スキルが生成AIでリセットされる時代──「働く」のアップデート、「個」の資源選択【澤円 × 田中弦】

登壇者:圓窓 澤円(さわ・まどか)氏、Unipos 田中弦(たなか・ゆづる)氏

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時間という貴重な資源を再配分するための決断

 田中氏の会長就任という決断を受け、議論は経営者の役割と時間の使い方へと展開した。澤氏は、経営者の仕事は極論すれば「人と会うこと」と「何かを決めること」の2つに集約されると定義した。実務的なタスクに経営者が時間を使うのではなく、特に重要なのは「やめることを決める」決断であると強調した。

 人生における時間は有限であり、1日24時間、1年365日、そして人生は1回きりという制約は誰にでも平等にある。情報や競合が増え続ける現代において、全てのことに対応するのは不可能であるため、時間の配分を変えるためには何かをやめなければならない。しかし、組織ではサンクコスト(埋没費用)への執着や、既存の会議体を廃止することへの抵抗感から、この「やめる」という意思決定が非常に困難であると澤氏は指摘した。

 澤氏自身の実践例として、ここ1年で「自分で移動すること」をやめたエピソードが披露された。澤氏はドライバーサービスを契約し、移動時間を自ら運転したり電車に乗ったりする時間から、ミーティングや資料作成を行う生産的な時間へと変換した。これは単なる費用の出費ではなく、時間を生み出すための「投資」であると澤氏は説明した。経営に携わる人間は、自分以外でもできる業務や移動などを徹底的に排除し、自身が最も注力したい領域にリソースを集中させる英断が求められるのである。

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生成AIにより「個」が中心となる時代

 対談の後半、話題は組織論から時代の潮流へと移った。澤氏は、インターネットの進化をWeb1.0(通信とPC)、Web2.0(プラットフォーム)、そしてWeb3.0(個の時代)という変遷で解説した。Web3.0の世界では、ブロックチェーン技術などを背景に、プラットフォーマーに依存せず「個」が主体となって活動することが可能になる。これは究極の個別最適化であり、これからの経営は「セグメントごと」の管理ではなく、一人ひとりの「個」がいかに快適につながり活躍できるかをデザインすることが求められると澤氏は展望を語った。

 田中氏もこの視点に共感し、Uniposのサービス自体が「称賛」を通じて個人の承認欲求を満たし、モチベーションを高める仕組みであることを再確認した。組織の中で個が埋没するのではなく、個が尊重され、その熱量が周囲に波及していくようなマネジメントが、これからの時代には不可欠となる。

心理的安全性を醸成する「最初の一言」の技術

 最後に、組織を変革し、個の力を引き出すための具体的なアクションとして、澤氏は「一言目を変える」というテクニックを提唱した。部下や同僚から相談や提案を受けた際、内容が何であれ、まずは「いいじゃん」「面白いね」といった肯定的な言葉で受け止める癖をつけることである。第一声で「しかし」「それは」と否定や防御に入ると、相手は萎縮し、その後の建設的な議論が阻害されてしまうからである。

 澤氏はまた、日本企業で頻繁に見られる「私はいいけれど、あの人はなんて言うかな」という論法を厳しく批判した。その場にいない上司や権力者を引き合いに出して提案を却下することは、自身の責任を回避するひきょうな態度であり、管理職としての職務放棄に他ならない。中間管理職の役割は、上位層を説得し調整することであり、部下のチャレンジを阻む壁になることではないと澤氏は強調した。

 対談の締めくくりとして、澤氏はAI時代における人間の役割について言及した。生成AIが実務を代替していく中で、人間に残される仕事は「他人とうまくやっていくこと」である。自身の欠けている部分を認識して他者に助けを求め、逆に他者の欠けている部分を自ら補いに行く。このように「個」として自立しながらも相互に補完し合う関係性を築くことこそが、これからの時代を面白く生きるための鍵であると語り、セッションは幕を閉じた。

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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